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へ出場辞退でも、別にいいんじゃねーの

うんうんここいらで一年くらい公式試合をお休みするのも悪くないかもねぇ

遠藤の必死の説得を、二年生二人は軽く流してしまう

ふざけないで下さいオレ、マジで言ってるんですッ

遠藤はいよいよ真剣な顔で先輩二人に詰め寄る

しかし

おい遠藤お前、一年のくせに先輩に意見しようってのかよ

お前、もしかしてオレたちのことナメてる

デブとノッポの態度が一気に険悪になる

あのそういうことじゃなくって、オレはチームのことを考えて

ふーん、まあ、そうだろうねお前は一年生でもベンチ入りは確実だし、レギュラー獲る可能性もあるからな

だっけど、オレたちはどうせ試合なんか出られないわけだし

ベンチでなく、観客席で応援させていただくだけだし

いてもいなくてもいい存在なんだからさ練習サボってタバコ吸うくらいは大目に見て貰いたいよなぁ

ホントホントまったくだ

いや、でも、そのオレの態度が生意気だと思われたんでしたら、謝りますすみませんでしたでも、お願いしますタバコはやめて下さいこの通りですから

そう言って、遠藤は帽子を脱いで二人に深く頭を下げる

おい、遠藤

デブの杉山の呼び掛けに、遠藤が顔を上げる

お前、本当に一年のくせにチヤホヤされ過ぎて、先輩に対する礼儀ってものを知らないみてぇだな

ホント、ダメだなこいつ

ノッポの鯉住が呆れ顔で吸っていたタバコを遠藤の足下に投げつける

タバコが床に弾けて、火の粉を飛ばす

あ、ありがとうございます

遠藤はそれを鯉住が喫煙を断念したと勘違いしたらしい

ちげーよ、ばぁか

鯉住は杉山から新しいタバコを受け取って、火を付ける

じゃあ、オレも二本目の一服しちゃおうかな

杉山も二本目のタバコに火を付けた

遠藤は思わず憎しみの強い眼で、二人を睨んだ

ほーらほら、その眼だ

センパイをセンパイと思っていない、人を小馬鹿にした眼

才能のある一年生は違うねえ

まったくだよ

また煙を吐く、二人

どうしたらタバコを止めて、もらえますか

静かに遠藤が二人に言う

何か、言ってますよ、杉山ちゃーん

声が小さくて聞こえなかったよなあ、鯉住ちゃーん

オレたちにどうしたらタバコを止めてくれますかだってよ

こいつ、自分で考える脳は無いのかね

何か、彼の中の大きなプライドが邪魔してるんじゃないの

さっきだって、ちょびっと頭を下げただけでこの通りですからときたもんだし

土下座してでもなんていう覚悟は無いのかねぇ

無いんじゃねえの一年生でレギュラー狙ってるっていう才能溢れるお方らしいから

デブとノッポは煙を吐きながら、ケケケと笑った

オレが、土下座すればいいんですか

遠藤の声が震えている

言葉では土下座すると言っているが、内心は二人の態度に強い怒りを感じているらしい

言われないと判らないってのは、どうかと思うけどねぇ

まあ、土下座くらいしておいた方がいいんじゃないのそれでオレたちがタバコを止めるかどうかは判らないけど

きっとやんねえよ、こいつマジでプライド高いから

そうだな、ちょっとナルシストも入ってるし

そういや、最近、可愛いカノジョができたって話だし

ありゃまあ、イケメンでリア充とくりゃ、絶対土下座なんかしねえはな

ここまで言われたら遠藤みたいな男がどうなるかは誰にでも判る

いいっスよ土下座くらいしますよッ

四つん這いになって、両手を屋上の床に付ける、遠藤

お願いしますッお二人とも、タバコは止めて下さいッ

額を地面にこすりつけて、二人に懇願する遠藤

その瞬間だった

屋上の鉄の扉をバァンと開けて、飛び出すオレ

手には小型のデジタルカメラを持っているッ

オレはそのまま、写真を撮る連写して撮る

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

屋上でタバコを吸っている上級生の野球部員たち

その二人に土下座している遠藤

カメラに記録されていく画像

オレに気付いた遠藤がハッと顔を上げる

そのマヌケな驚き顔まで

ありゃりゃりゃぁ、たまたま屋上へ着てみたら、トンデモナイ物を見てしまったぞぉ

何かカリオストロの城のとっつあんみたいなマヌケなセリフを呟く、オレ

こうして録画画像で観てみると、あまりの大根役者ぶりに情けなくなる

吉田ぁぁ、てめぇぇぇ

オレを確認した遠藤が立ち上がるッ

遠藤、そいつのカメラ、ブッ壊せ

は、はいッ

一連の出来事にすっかり頭に血が上っている遠藤は、杉山の命令に従う

オレに飛びかかって、オレの手からデジカメを取り上げるッ

そして、力任せにカメラを床に叩き付けるッ

ひしゃげて壊れるカメラ

遠藤、そいつが喋らないように口止めしろッ

とにかく、二、三発、殴っちまえよッ

はいッ

すでにいっぱいいっぱいの遠藤は、反射的にオレを殴りつけるッ

一発ッ二発ッ三発ッ

再生の映像でも、自分が殴られるのを観るのはつらい

二十三時間前の痛みが蘇ってくる

口の中の血の味が拡がっていく

屋上の地面に転がる、オレ

そのオレの上に遠藤がのしかかり、オレの胸ぐらをグイッとつかみ挙げる

制服のシャツのボタンが幾つか弾け飛んだッ

おいっ、吉田ッッこのことは絶対に喋るなよッ喋ったら、ブッ殺すからなッッ

すでに遠藤の顔は尋常では無い

もう、どうしようもなくエキサイトしている

このことってどのことだよ

映像の中の昨日のオレが、口から血を流しながら遠藤に問いかける

タバコのことかオレのカメラを壊したことかオレを殴ったことかそれとも

精一杯の侮蔑の目で、オレは遠藤に言った

お前が土下座してたことか

くぉのぉぉッ

遠藤が再びオレを殴るッ

一発ッ二発ッ三発ッ

遠藤の怒りは治まらない

四発ッ五発ッ六発ッ

不意に停止する映像

黒髪の女教師弓槻先生が再生を停めたのだ

先生はニッコリと微笑んで今までこの映像を観せられていた二人の生徒に振り向いた

一人は、もちろんオレ頭に包帯を巻いて、顔中に絆創膏を貼られている

そして、もう一人は白坂雪乃

彼女は自分の恋人の暴力行為の映像に、すっかり血の気を失っていた

毎日更新するのって、ホントに大変ですねえ