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だけど白坂さんは、鞄を持ったまま下車する

白坂さん、聞こえなかったの

先生の口元がピクリとする

聞こえてますでも、あたし、自分の荷物は自分で管理したいんです

白坂さんは、キッと女教師を睨んでいる

先生は、フッと顔を崩した

そうねあなたは、そういう子だったわね

車から降りた弓槻先生の元に、執事とメイドがいそいそとやって来る

執事さんは、七十歳近そうな白髪の老人黒い執事服白いシャツに黒いネクタイ度のきつそうな金縁の眼鏡痩せていて、年の割には背筋がピンと伸びている

メイドさんは二十歳前後だろうか美人で巨乳うん、誰が見てもはっきりとした巨乳の持ち主だけど、ウエストはキュッと締まっているお尻はまたドバーン凄いグラマラスな体型のお姉さんだ

髪の毛はちょっと茶色ががかっているがその色が白いメイド・キャップに映えているやっぱり黒いメイド服に白いエプロン

克子車を裏に廻しておいてちょうだい

弓槻先生はメイドさんにそう言って、車のキーを渡した

はい、お嬢様

克子と呼ばれたメイドさんは、キーを受け取ると運転席へ

車を駐車場へ置きに行くのだろう

森下食事の準備はできていて

先生は、執事さんにそう尋ねた

はいお嬢様のご指示通り三名様分、ご用意しております

女教師が、オレと白坂さんに振り向く

さあ、夕食にしましょうかあたし、とっても空腹なの

◇ ◇ ◇

屋敷の中は、古風で格調高い雰囲気に包まれていた

ただし壁は黒床も黒カーテンはさすがに白だけど

うん黒い背景の中に、時々白い物が混じっている

インテリアだとか机だとか時計とか

この家には、黒と白以外の色の付いたものは無いみたいだ

靴を脱がないで、人様の家の中を歩くというのは変な感じがした

オレたちはそのまま、ダイニング・ルームへと通された

夕食を食べるためだけの専用の部屋がダイニングそれが本来の意味だ何かの本で読んだことがある

ちなみに、朝食を食べる部屋はモーニング・ルーム

昼食は何処で食べるんだろう

弓槻先生のダイニング・ルーム大きな机に椅子が並んでいる

椅子の数は三つつまり、先生と白坂さんとオレの席だけ

いわゆるお誕生日席主人の席に、先生

客であるオレと白坂さんは向かい合わせで

壁は三方向がやっぱり黒く塗られているが、先生の席の正面側だけは白い

何か、意味があるのだろうか

それとこの部屋には、白いピアノが置かれていた

あの、あたし、お腹空いていませんから

と、白坂さんが言うと、女教師は、

どうしたの緊張しているいいから食べておきなさいこの先、夜は長いのよ

と、答えた

白坂さんは、ギッと先生を睨が、先生はフフフと笑ったまま

執事とさっきのメイドさんが、料理を運んでくる

えこれって

スープとサンドイッチくらいなら入るでしょ

いやただのスープじゃない本格的なフランス料理に出てくるような、ブイヨン・スープだった

何時間もじっくり煮込んであるのだろう美味しそうな匂いが部屋に立ちこめる

サンドイッチも、まるで一流ホテルのレストランが作ったみたいな、一皿二千円とか三千円とかしそうな感じの出来映えでパン生地そのものからして、もう見た目から違う

さあお食べなさい

躊躇したままの白坂さん

オレは、サンドイッチを一つ取って食べてみる

美味い

ローストビーフと新鮮なトマトの味が口の中に拡がっていく

そのオレの呟きを聞いて、白坂さんもサンドイッチを一つ摘んだ

小さな口で、ちょっぴりと囓る

味に問題ないことを知ると、普通に食べ始めた

スープの方も美味いなんてもんじゃないするすると胃の中に落ちていく

執事さんが小さめのワイン・ボトルを持ってきて、オレたちの目の前で封を切る

まずは、女教師のグラスに注ぐ

次に、白坂さんのグラスへ

待って下さいあたし、お酒は、

白坂さんが給仕を断ろうとすると、女教師が、

心配しなくていいわこれ、ワインじゃないのワインの原液ただのブドウ・ジュースよアルコールは入ってないわもっとも、最高級のワイナリーが一部の顧客にだけ販売している、普通では手に入らない代物なんだけどね

そう言って、一口飲む

ああ、美味しい

半信半疑でグラスを見ている、白坂さん

執事さんがオレのグラスにも注いでくれたので、試しに飲んでみる

な、なななな何だ

甘くてコクがあってすっげぇ、美味い

そうでしょあたしは、これじゃないとダメなの

先生はコクコクと喉を鳴らして、グラスを飲み干した

すぐに、執事さんが注ぎに行く

白坂さんもおそるおそるグラスに口をつける

そして舌で味を確認してから、ゴクリと飲んだ

柔らかそうな白坂さんの唇

どうしたの、吉田くん白坂さんが食事するところを見るのは、そんなに面白い

不意に、先生がそんなことを言い出した

白坂さんがビクッとして、オレの方を見る

あオレ、ジロジロ見ていたのかな

ごごめん

白坂さんに謝る

白坂さんは無言で、オレから眼を背けた

だからオレも、白坂さんの方を見ないようにして

いいじゃないじっくり観察すればいいのよ人の食事の様子を見ると、その人のセックスへの関心が判るという説があるわよ

弓槻先生がそんなことを言うからオレは、ますます意識してしまう緊張してしまう

どうしようもないので、食事だけに集中した

サンドイッチを摘んで、スープを胃の中に流し込んでグラスが空く度に、執事さんがどんどん注いでくれるから、ジュースもゴクゴク飲んでしまう

オレがそんな勢いでバクバク食っているからだろうか白坂さんも、もう緊張せずに普通に食事を続けているジュースも何杯目かだし

本当に美味いジュースだすでに三人で小さなボトルを何瓶も空けてしまっている

しばらく、無言の食事が続いていた

不意に弓槻先生が顔を上げる

あんまり静かなのも楽しくないわね克子、何か弾いてちょうだい

メイド克子さんがピアノに向かう

何の曲がよろしいですか

克子さんが白いピアノに座って、主人に尋ねた

そうねラヴェルがいいわ水の戯れを

畏まりましたわ

ピアノを弾く、克子さん

プロのピアニストとしか思えない、見事な演奏

白坂さんも驚いて、食事の手を止めて演奏に聴き入っている

オレたちはすっかり、圧倒されていた

弓槻先生と、この屋敷と執事さんに克子さん

全てが醸し出す、上品な雰囲気に

呑まれていただまされていた

きっと、それも先生の仕掛けた罠の一つだったのだろう