だけど逆さまになっていてもなお、この人がスゴイ美人であることは判った
彫りの深い、目鼻のくっきり際だった、フランス人形みたいな美人だ
ホント、フランス人みたいに眼が青い
え外人
いや違うッ
これはカラー・コンタクトだ
目をこらして見ると瞳の上にまん丸くコンタクトの縁が、くっきりと段を作っている
ね、大丈夫君は、ずっと気を失ってたんだよっ
染めた金髪に青いコンタクトの綺麗な女生徒
膝の上の逆さまのオレの顔を見て、のほほんと微笑んでいる
つーかオレ、こんな風な女の人の顔を下から見上げるなんて、生まれて初めてだっ
こんなことが自分に起こりうるなんて、まったく予想していなかった
というかオレを膝枕してくれるような女の人が、この世に存在しているはずがない
すなわちっこれは、夢だ
きっとオレは遠藤に殴られたまま、夢の世界にいるんだ
戸惑うオレその顔を見て、その女生徒はうふふと笑った
あ、夢じゃない
ホントに実在しているぞ、この膝枕っ
これは、もしかしてアレか
ききき、奇跡が起きたってやつか
奇跡なんだなっ
キセキーッッッかかかか、神様ぁぁッ
膝枕の主金髪の女生徒が、あんという顔をしてオレの顔を覗き込む
天地逆さまのまま、オレと彼女の眼が合うっ
これはななな、何か会話をしないといけない
とにかく、話し掛けてみようッ
だ、誰ですか
とりあえずそんな馬鹿なセリフしか、頭に浮かばなかった
んーと、あたしっ
上下逆さまの金髪女性が、長い指で自分を指さす
って他にいないだろ
オレの現在の視界空が4割で、金髪が6割なんだから
もう一度繰り返す
空が4割で、金髪が6割だ
誰だと思う
女生徒は、ふふんと悪戯な笑みを浮かべた
ったく質問に質問で返すなっての
初めて見る人なんだから他に答えようがない
じゃあ、あたしを見てどう思うどんな人なんだと思う
どんな人って
君の率直な感想を述べてみよっ
改めて、上下逆さまの女生徒をよく見てみる
すっごく美人で、とても優しそうな人だけど
染めた金髪に、ブルーのコンタクトをしていて
つまり
西洋かぶれ
金髪の女生徒は、ぷぷぷーっと大きく吹き出したっ
ぎゃはははと大きな声で笑う
お腹が、ぷるぷる震えているその振動が、膝枕されているオレの頭にも伝わってくる
何よそれ、受けるぅぅっどっから、そんな言葉が出てくるのよっ
だ、だってき、金髪で、眼が青いから
オレの答えに、女生徒はさらに大笑いした
面白い、面白いわねぇ君っ、天然なの才能あると思うよっあたしと一緒に芸人の星を目指してみようかっ
いやそんな星は目指さないです
ああーっ、もうっ
とにかくこのまま相手に膝枕してもらっている体勢ではいけない
これじゃあ、どうやってもお互いの顔が上下逆さまで、まともな会話ができない
オレは身体を起こして、彼女から離れた
クゥッさっき、遠藤に殴られた辺りが痛むッ
大丈夫
へ、平気ですっ
女生徒から1メートルばかりずりずりと離れてオレは、緑色のゴムで防水加工された屋上の床にへたり込んだ
金髪の女生徒は、オレを見てニーッと笑っている
こうして少し離れた位置から見てみると思っていたよりも、ずっと綺麗な人だって判った
逆さまの画像とは、全然美人度が違うレベル4つくらい上だ
目鼻はくっきりしているのに、とっても愛嬌のある優しい顔立ちの美人
大きな眼が素敵だけど、口も大きいな
とっても印象的な大きな口が、ムフフって感じに笑ってる
おっこの人、結構、胸が大きいんじゃないのっ
克子さんほどではないけれどボインと出てて、それでもお腹はキュッとへっこんでいる
水着になったら、すっごいだろうなあ
んどこ見てんのよぉ
あっご、ごめんなさい
ま、いいけどね別に減るものでもないし
で結局、誰なんだ
あたし奈島寧二年生だよっ
二年生先輩なんだ
な、奈島センパイな、何で、お、オレに膝枕なんて
そもそも、そこが判らない
ん判らないのっ
そ、そんなのわ、判るわけないですよっ
奈島センパイは、ヘヘーンと笑って答えた
弓槻先生に呼ばれたからに決まっているじゃないっ
ゆ、弓槻先生
あたしさ五番目なんだ
金髪青コンタクトのセンパイは、悲しげに微笑む
五番目
夕べ、先生は白坂さんを七人目と言った
ってことは、もしかすると
そうあたしは、弓槻先生の五番目の玩具なの
弓槻先生の玩具
遊び道具
階下の音楽室から、また合唱の声が聞こえてくる
ゆ、弓槻先生がな、何て
合唱の声の中オレは、思い切ってセンパイに尋ねてみた
ん昼休みに弓槻先生に呼び出されてねそれで、屋上に君が倒れているから、介抱して面倒を見てやれって、言われたのそんだけあっ、面倒を見ろったって、エッチなことをしてやれとは言われてないからねっ
いやそりゃ、そうでしょうげど
あれ、でも今って、授業中だよな
休み時間や放課後なら、もっと学校中ガヤガヤしているし
音楽の授業の合唱だけが、こんなにはっきりと聞こえてきてるんだから
せ、センパイ、ご、五時間目の授業は
そう尋ねるオレの顔を見てセンパイは、またけらけらと笑った
もおっ、今は六時間目だよ君は、五時間目は丸々眠ってたんだからっ
あそうなんだ
じ、じゃあ、せ、センパイはひ、昼休みからずっと、お、オレを膝枕しててくれたんですかっ
うんそうだね
ご、午後の授業で、出なくてもいいんですかっ
また奈島センパイの顔が、さみしくなる
いいのよあたしはさぁあたしは、この高校では札付きの不良ムスメってことになっているから
不良ムスメ
確かに金髪に染めた頭髪やブルーのカラー・コンタクトは、不良っぽい要素を感じさせている
だけど、こうして話をしてみると奈島センパイは、全然不良っぽくない
まるで、人なつっこい子犬みたいに親しみやすくて
その上、とっても優しくて
まあ、そんなことは君は別に気にしなくてもいいんだよっ
で、でも
あたしねダブってんの本当なら三年生なんだけど、今年もう一回二年生をやってるのだからねもう、いいのっ
ダブってる
留年して、二年生をもう一度繰り返している
去年さ、ちょっと出席日数が足りなくてねあ、ちょっとどころじゃないか二学期の途中から三学期まで、あたし、ずーっと休んじゃったからっ
病気療養
大きなケガをした
いいや違う
そ、それってゆ、弓槻先生のせいですかっ