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センパイは、フフッと力なく笑った

半分はねでも、もう半分は自分のせいだから留年したことについては、あたし、弓槻先生を恨んだりしていないよっこれは、あたしが自分で決めたことだから

奈島センパイは、そう言った

音楽室から、また合唱の声が響いてくる

さっきとは違う別の曲

あ、あたしこの歌、大好きなんだっメンデルスゾーンの歌の翼

また奈島センパイの顔が、コロッと笑顔に戻る

何て、表情の豊かな人なんだろう

この歌、もう随分歌ってないなぁ

何かを懐かしむかのようにセンパイは呟いた

あたしさ、合唱部だったんだよね一年前まで

今は、違う

退部しなくてはいけないようなことが起きたんだ

きっと、その影に弓槻先生の姿がある

あたしも、一緒に歌っちゃおうかな他の子の歌声に紛れ込んじゃえば、あたしがここで歌ってても誰にもバレないよねっ

奈島センパイは眼を輝かせて、オレに尋ねた

た、多分

じゃあいいやっ、歌っちゃえっ

奈島センパイの歌声

オレは正直こんな歌は知らなかった

オレの中学では習っていない

っていうか、習っていたとしても覚えていない

初めて聞くも同然の歌だった

だけど奈島センパイの歌声は、素晴らしかった

たくさんの生徒の合唱の声に合わせているはずなのにセンパイの声だけが、一際くっきりと明瞭に浮かび上がって聞こえる

この青空みたいに透き通る綺麗な歌声だった

この人すっごく真面目に合唱部をやっていたんだ

それがよく、判った

そしてそんなに一生懸命やっていた合唱部を

この人は辞めなければいけなかった

やがて歌は終わった

しばらく歌ってないと、やっぱりダメだねっ全然声が出ないやっ

そ、そんなことないですっお、オレ、感動しましたっ

そお

なら、良かったっ

金髪のセンパイは、へへへと笑った

屈託のない笑顔

この人のどこが不良なんだ

そりゃ、見た目は金髪で眼が青くて元から西洋人っぽい派手な顔立ちだから、それが妙にマッチしてるけれど

全然、不良じゃない可愛い人じゃないかっ

ごめんね

え、えっ

センパイは静かにオレに話し出す

今日はただの顔合わせだから、こんな感じだけどさっあたし、きっとこれから弓槻先生の命令で、君に酷いことをすると思うのたくさんたくさんねっだからさ先に謝っておきたくて

奈島センパイ

そ、そんなのき、気にしないで下さいど、どうせ、せ、センパイも弓槻先生の命令に従わないといけないような、そ、そういう状況に陥っているんでしょ

きっと、この人も

何か、弱みを握られて

うんうんあたしは、好きでやってんのっ

自分の意思で、弓槻先生の玩具を続けているのっだから、ごめんっ

そそうなんですか

その代わり、もし先生から命令があったら、あたしのこのナイスなボデイ、君の思う存分に蹂躙させてあげるからねっ

ニコニコと微笑む金髪のセンパイ

あこの人はやっぱり、不良少女なのかもしれない

そ、それはあの

どうとっても、抱き心地が良さそうでしょ

期待してなさいねっ

うん、いい返事っ

六時間目の終わりを告げるチャイムが鳴るっ

そろそろ、君は教室に帰った方がいいよね帰りのホームルームがあるでしょ

ホームルームは、弓槻先生だ

は、はい、も、戻りますっセンパイは

あたしはもう少し、一人で屋上にいるよっていうか、あたしは今日は登校していないことになっているから

って一度も自分の教室へ顔を出してないんですか

じゃ、またね次に会った時も、こんな風にまったりできたらいいんだけどっ

センパイはこの次は、オレを苦しめに来るかもしれない

オレと白坂さんを

突然屋上の鉄のドアが、ガチャリと開いた

ああっ、吉田くん、ホントにここにいたっ

それはうちのクラスの委員長の山峰さん

や、山峰さんど、どうしてここに

弓槻先生に言われて来たのよ屋上に吉田くんが居るから、連れてきなさいって

さ先を越された

っていうか、先生、絶対にカメラで監視してたな間違いない

ほら、お迎えも来ちゃったしばいばい

奈島センパイが、笑ってそう言った

寂しそうな笑顔だった

失礼します行こう、吉田くんっ

オレはセンパイにペコリと頭を下げて、屋上から校舎の中へ

トタトタと早足で階段を下りる山峰さん

後ろから追い掛けるオレ

急いで教室に向かいながら山峰さんが、オレに話し掛ける

奈島先輩でしょ、あの人二年の

し、知ってるの

有名だよあたしは部活の先輩から聞いたんだけどすっごい不良なんだって

そ、そうなんだ

何かさ去年、ずっと学校を休んでいたらしいんだけど

う、うん

援助とかやってて、それで妊娠して、赤ちゃんを堕ろしたからだってそう聞いた

え、援助交際、妊娠、堕胎

どうして吉田くん、奈島先輩と屋上にいたの知り合いなの

山峰さんが、切れ長の眼でオレに振り返る

き、今日が初対面っあ、あのお、オレが屋上で伸びていたら、な、奈島センパイが、たたた助けてくれて

伸びてたって屋上で

あ余計なこと言っちまったかも

吉田くん、昼休みに遠藤くんに呼び出されて、屋上に行ったんだよね

そうだったあの時、山峰さんは教室にいなかった

もしかして遠藤くんに叩かれたの

昼休みだけじゃなくって今朝、顔を腫らしていたのも、遠藤くんのせい

ちちち、違うよ

本当のことを言って

だだだ、だからち、違うってえ、遠藤は、な、何も関係ない

山峰さんは、スッと正面に視線を戻した

オレを見ないで強い声で言った

そう吉田くんがそう言うのなら、あたしはそれ以上聞かないわっ

お、怒った

怒らせちゃったのかな、オレ

二人で、教室に戻る

先生っ、吉田くんを連れてきましたっ

不機嫌に弓槻先生に報告する、山峰さん

はい、ご苦労様さ、席に着いて

弓槻先生は、相変わらずの冷たい微笑

教室中の生徒たちが、オレを見てざわざわと囁き合っている

そうだよなあ

オレが、遠藤に屋上に連れて行かれたのみんな見てたしなあ

オレの顔、さっきより腫れてるし制服だって汚れてるし

どんなことがあったのか、みんな見当は付くだろう

遠藤本人は、ムッとむくれて窓の外を見ている

白坂さんは暗い顔で俯いて、じっと下を見ている

吉田くん、何回だった

不意に弓槻先生がハンと鼻を鳴らして、オレに尋ねた

教室の生徒たちは、言葉の意味が判らずの表情

オレには、すぐに判った

ご、五回ですっ

白坂さんの顔が、絶望に墜ちる