五回それは、遠藤がオレを殴った回数
そして白坂さんが、今日これからオレに犯される回数
そう、五回あなたも、大変ねえホームルームが終わったら、あたしの部屋まで来なさい少し、あなたに聞きたいことがあるから
クラスの連中は、先生はオレに事情聴取するつもりなんだと、勝手に勘違いしてくれた
それで、直前に出た五回という言葉への関心が薄れる
じゃあ、今日はもうおしまいにしましょうみなさん、さようならっ
ホームルームが終わる
先生の所へ行こうとすると
おいっ、吉田ッ
遠藤が、オレに声を掛けてきた
うわっ、オレのことを物凄い目つきで睨んでる
絶対に喋るなよと、眼で訴えてる
みんなが、見ているっていうのに
こいつ、馬鹿だ
マジで馬鹿
ホンモノの馬鹿
そんな遠藤を心配そうな眼で見ている、白坂さん
オレの方は見ない
やっぱり遠藤なんだな
あれ
山峰さんが、白坂さんを見ている
かなり真剣な眼で
これって
吉田くん、行くわよっ
弓槻先生に呼ばれた
ははいっ
廊下に出るなり、先生は言った
ホント、あなたって最高ねいい感じに、どんどん周りを巻き込んで
しかも、自分では全然気付いていないっ
そう言って、弓槻先生はクククと笑う
先生に連れて行かれたのは、生徒指導室ではなく先生の専用個室である英語授業準備室の方だった
というか、校内に張り巡らされた監視カメラのモニター室だ
コーヒー飲む
部屋に入るなり、いきなり先生が言った
い、いえけ、結構ですっ
そう
先生は、自分の分だけコーヒー・メイカーからカップに注ぐ
それから、机の上のキーボードを操作した
今、中央のモニターに映っているのは今さっきまで居た、オレたちの教室
帰宅する生徒部活へ向かう生徒
生徒の数はどんどん減っていく
そんな中、白坂さんだけが身動きをしない
自分の席に座ったままじっとしている
そうだ彼女は朝、放課後は教室に残るように先生に命令されていたんだっけ
そんな白坂さんのところへ遠藤が行く
集音マイクが、二人の会話を拾う
雪乃、まだ帰らないのかよ
白坂さんは椅子に座ったまま、遠藤に振り向いて答える
うんもう少しだけ
もしさ、図書室で勉強とかしてるんなら練習終わるまで待っててくれよ一緒に帰ろうぜ途中で何か食ってもいいし
あ、今日はダメ用があるのあのお母さんに頼まれたことが、ちょっとあって
なんだそうなんだ
う、うん、ごめん明日は、明日はきっと大丈夫だから
ああ、明日の夕方は、オレとデートだからなっ
そうだね
山峰さんがそんな二人を、少し離れたところから見ている
ほら、ケンジ、急がないと、先輩に怒られるよ練習、がんばってね
ああ夜、電話するからなっ
夕べみたいに、出ないってのはカンベンしてくれよっ
判ってるってば
遠藤が、教室の外へと出て行く
手を振って、遠藤を見送る白坂さん
すぐにツカツカと山峰さんが白坂さんの席へ向かう
もう、教室にはほとんど生徒は残っていない
雪乃、ちょっといい
ななあに
白坂さんは、作り笑いで山峰さんを出迎えた
雪乃今日、変だよ
そうかしら
そうだよ顔色は悪いし授業中、何度も居眠りしてたしそれに
何
あなた朝からずっと、その席に座りっぱなしじゃない全然、動いてないでしょ
ビクッと震える、白坂さん
ふふふ、山峰さん、よく観察しているわねっ
モニターを眺めている先生が、楽しそうに笑った
そんなこと、ないよ
嘘よ、あたし、ずっと見ていたのよどうしたの、身体の具合でも悪いの
ほっといてよ
白坂さんが大きな声で山峰さんに怒鳴ったぁ
それもいつも笑っている白坂さんからは、想像できないような強い口調だった1
あたしのことは放っといて恵美には山峰さんには、関係ないことなんだからっ
雪乃っ
気安く名前で呼ばないでっそういう関係じゃないでしょ、あたしたち
あまりの剣幕に、教室に残っていた数人の生徒たちも、みんな退出していく
教室に居るのは白坂さんと山峰さんの二人きり
そういう関係だよあたしたち
山峰さんが、静かに白坂さんに言う
雪乃は嫌かもしれないけれどあたしは、これからもずっと雪乃を名前で呼ぶ雪乃にもあたしのこと、恵美って名前で呼んで欲しいと思ってるあたし
何があったんだろうこの二人に
どういう関係なんだろう白坂さんと山峰さん
ただの遠縁の親戚じゃないのか
あたしは嫌
不機嫌に白坂さんは、答えた
それならそれでもいいわでも、もしあたしにできることがあったら、何でも相談してね
あなたに相談することなんて、何もないわよっ
あたし、待ってるから
出てって一人にしてよっ
判った
山峰さんはそう言って、自分の席に戻ってバッグを取った
じゃ、雪乃あたし、部活行くから
勝手に行けばいいじゃないっ
とぼとぼと教室から出て行く、山峰さん
そして教室の中は、白坂さん一人きりになる
ふーっとため息を吐く、白坂さん
席に座ったまま何かに耐えるように、クッと奥歯を噛んでいる
さて、ここからが第2幕の始まりよ
監視モニターを食い入る様に見つめているオレに、弓槻先生が言った
第2幕
ほら、やって来た
廊下を歩いてくるコツン、コツン、コツンという、足音
白坂さん一人の教室に誰かがやってくる
それは眼鏡を掛けた髪の長い美少女
あなたが、白坂雪乃さん
眼鏡の美少女に声を掛けられて白坂さんはハッとする
教室の入り口に振り向いてその美少女の姿を見るッ
あたしのこと、あなた、知ってる
眼鏡美少女は、フッと微笑んで白坂さんにそう言った
し、知っています生徒会長の
そうだ入学式以来、学校行事の度に何度も見ている
そうよ三年の岩倉幸代
岩倉さん生徒会長の岩倉幸代さん
理知的で涼しげな美貌の美少女
生徒にも先生にも評判が良い
去年の選挙では、ほぼ満票で生徒会長に当選したって聞いた
その眼鏡美人の生徒会長が白坂さんに微笑む
あなた七番目なんでしょ
大きく見開かれる白坂さんの瞳
あたしは四番目
それはつまり
弓槻先生の四番目の玩具なの
えっと七人の玩具は、全員のエピソードはやりません
二人ぐらいは登場もしないと思うし
また、奈島センパイと岩倉会長は同時期に弓槻先生の魔の手に掛かっています
なので、ワン・エピソードでまとめる予定
うまくいけば
っていうか山峰さんさえ、自己主張してきたし