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ただ、古い建物がまだ幾つか残されている地区が残されている

東門の周囲のその一角だけ、工事地区としてバリケードやフェンスで封鎖されたままになっているのだ

中に入るには、一度校外へ出て、学校の周りをぐるりと廻って東門を通るしかない

いいわね

しかし、先生

岩倉先輩は、弓槻先生に反抗しようとする

岩倉幸代、命令内容を復唱しなさいっ

先生の命令に岩倉さんは背筋をピンと伸ばして、即座に返答する

はいっ岩倉幸代は、十五分後に学校の外を廻って東門まで白坂さんを連れて参りますっ

誰にも見つからないようによ

はいっ誰にも見つかりませんっ岩倉幸代は、ご命令を着実に遂行致しますっ

突然、人が変わったみたいだった

弓槻先生にフルネームを呼ばれた瞬間岩倉先輩は、緊張しきった様子で弓槻先生の言うがままになっている

まるで、弓槻先生の忠実な僕のように

では、後ほど岩倉さん

先生が電話を切る

岩倉先輩は先生から岩倉さんと呼ばれた瞬間に、プツンと緊張の糸が切れたように脱力して

だだめだわあれから、もう半年以上経っているのにウウッ

そのまま、胃の辺りを抑えて生徒会室の水道のある流し場へ駆け込むっ

うぇぇぇぇぇぇッ

激しく嘔吐する岩倉先輩

先輩大丈夫ですかっ

白坂さんが心配そうに近寄り、岩倉先輩の背中を優しく擦る

蛇口を捻って、水道の水で先輩の吐瀉物を洗い流す

もう大丈夫よ平気だから、ありがとう

水道の水で口を漱いで岩倉先輩は、白坂さんに礼を言った

私ダメなの弓槻先生に名前を呼ばれると、どんな命令にも逆らえなくなる時間が経って、少しは呪縛が解けているだろうって思っていたけれど全く抵抗できなかった

先輩

私ね先生と出会う前の私は、今とは全然違う人間だった暗くて、人見知りで、人前に立つことが苦手でそれこそ、生徒会長に立候補するなんて、全然思ってなかった

そうよいつも人の影に隠れて、周りの様子を伺っているだけの女クラスの中で、居ても居なくても変わらない存在空気みたいな女だった

信じられません

空気みたいな無色透明な存在なのにそれなのに、あたしずっと心の中では、周りの生徒たちを馬鹿にしていたの

明るい子も暗い子も、成績の良い子も悪い子も、スポーツの得意な子も苦手な子も、優等生も不良生徒も私、みんなみんな馬鹿にしてた学校中の生徒全員が大っ嫌いだったのみんな、死ねばいいのにって、毎日思っていた私は、ここにいる子たちとは違う私がいるべき場所は、ここじゃないって、そう思い込んで日々を過ごしていた

岩倉先輩の告白に白坂さんは、呆然としている

結局、私が一番馬鹿だったのよ本当の馬鹿だから、弓槻先生みたいな人に捕まって学校の他の生徒の誰もが体験していない世界へ連れて行ってあげるって言われたわでも、そこは地獄だった

白坂さんの顔が恐怖に怯える

先生は、私にいつも言うの岩倉幸代、今日はどこそこに行きなさいって私はその時、すでに先生に弱みを握られていたから、逆らうことはできなかったわ先生の命令で、本当に色んな場所へ行ったわ最初は、大きな駅の薄汚いラブホテルだった

そこで、知らない男に処女を犯され私、毎日、売春させられたの

弓槻先生の言っていた売春させられた子って、岩倉先輩のことだったんだ

岩倉幸代、今日はあそこへ行きなさい、今日は、こんな人の相手をなさい、そうして、滅茶苦茶な体験をしたお金持ちのおジィさんに高級ホテルのスイートルームで犯されたことがあるわ海外へ向かう個人所有のジェット機の中で、高度一万メートルでセックスしたことも逆に知らない街の夜の公園で泥まみれになって、浮浪者に輪姦されたこともあったわ暴走族の溜まり場に連れて行かれて、一回三百円で売春させられたことも確かに、そのどれもが特別な体験だった果てしない地獄だった

そんな経験を岩倉先輩はしたんだ

そんな生活を3ヶ月続けたわそしたら、ある日、弓槻先生があたしに言うの岩倉幸代、じゃあ明日からは学校の中でも売春しましょうかあなたが馬鹿にしていた生徒たちにも身を売りなさい一回、幾らにしましょうかって

ひ、酷い

先生は、オレの隣でクククっと笑っている

私ついに耐えられなくなったそれまで耐えられたのは、売春相手が全部知らない人ばかりだったからどの人も一度きりで、全部知らない街での出来事だったからなのに、学校の子たちと売春しろなんてガマンできなかっただから、私、先生に言ったの、そんなことをするぐらいなら死にます殺して下さいって

息を呑む、白坂さん

岩倉先輩が、話を続ける

その時の私は、何もかもに絶望していた汚れきってしまった自分の身体が嫌だった自分は、世界中の誰よりも汚れているって思った私の人生は、もう終わってしまったんだって思ったでも、先生は死ぬことを許してくれなくて

モニターを楽しげに眺めながら先生は言った

あたし岩倉さんに言ったのよ何言ってるのよ、あなたの人生のどこが終わりなのよ

生徒会室の岩倉先輩が、言葉を絞り出す

終わってる、もう絶対に戻れないそう思ってたなのに、先生は私に言った

先生と岩倉先輩の言葉が、重なり合う

今までのあなたは死んだものと思いなさい岩倉幸代は、ここから生まれ変わるのよっ

ニッっと笑う先生岩倉先輩はほろりと涙を流す

生徒会室の白坂さんは呆然とモニター前のオレは唖然としている

次の日から、私は売春に出掛けることはなくなったわでも、やっぱり弓槻先生は私に命令するの岩倉幸代、今日はあそこへ行きなさい、今日は、こんな人の相手をなさいってでも、そこは高級エステサロンだったり、有名な美容室だったり、モデル事務所の立ち振る舞いの先生だったり、カウンセリングの先生だったりみんな女性だった男の人とは会わなかったそして、私はどんどん変わっていったの

変わる

白坂さんが、そっと呟く

そうよまずは、外見が髪と肌が綺麗になったところから始まって、レッスンを繰り返しているうちに身体のスタイルも変わっていった言葉遣いや話し方、声の出し方まで、厳しく直されたどんどん、私が私でなくなっていったそうしたら、学校の中で私に話し掛ける子が増えたの私の中身は何も変わっていないのにある日先生が、私に言ったわ岩倉幸代、次の生徒会長の選挙に立候補なさいって

オレの隣で悪魔がほくそ笑む

私無理です生徒会なんて、私には向いてませんって先生に言ったわそしたら、先生はこう言うのよそうよ、あなたには向いてないわだから、演じなさい生徒会長を演じるのよっ

演じる

その頃の私は、演技のレッスンも受けさせられていた多分、最初から計画していたんだと思うわ先生はこう続けれたの演じなさい演技ならお芝居ならできるでしょ嘘なんだからあなたの心と違っていても構わないんだからあなたが大嫌いな学校の生徒たちは、どんな生徒会長が好きだと思うイメージしなさいそして、演じるのよ