岩倉幸代っさっさと、帰宅なさいっ
先生の号令
はいっ岩倉幸代、帰りますっウウッッ
先輩っ
先生の命令を率直に受け入れる過去の岩倉先輩
先生の命令に反射的に拒絶しようとする現在の岩倉先輩
先輩の中で二人の自分が闘っているのだろう
岩倉さんあなたはあたしの四番目の玩具それは、ずぅっと変わらないのよ喜びも苦しみも、同じだけ味わせてあげるわ忘れないでねっ
再び、先生の笑い声が聞こえてくる
さよなら、白坂さん、また明日耐えるのよ、がんばってね
はい岩倉先輩、ありがとうございますっ
やがて、先生と白坂さんが守衛室に入って来た
岩倉先輩は、もう帰ったらしい
白坂さんはオレが居ることを確認すると、憎しみと侮蔑の視線を送ってきた
もう心の底から、嫌われているんだなオレ
改めて、そう思う
守衛室を通り抜けて、学校内の閉鎖空間工事地区に入る
もちろん、守衛室のドアは弓槻先生がきっちりと鍵を掛ける
もう、逃げ出せない
白坂さんはそして、オレも
こっちよ
先生は、オレと白坂さんをすぐ近くの小さな建物に誘った
それは、鉄筋コンクリート製の二階建て確実に昭和の建物だろうコンクリートは、すっかり薄汚れて緑色に変色している
ここはね旧校舎の時代の別館なの特別授業のために、後から足された建物ね
と、特別授業
昔はうちの高校でも、卒業後は就職希望っていう子がたくさんいたのよそういう子たちのための特別指導教室ね被服室とか調理室とか技術室とか特別教室ばかり入っているのよ
え、そんな授業もあったんだ
少子化に合わせて、この十年でうちの高校は進学校に特化したのだから、そういう特殊な授業は、随分前に全部やめてしまったわ
はぁ、なるほどそういう建物なんだ
でも、何で旧校舎の本館は更地になって、別館だけ残されているんだ
先生は建物の裏口の鍵を開けた
覚えておいてあたしは、このドアの鍵しか持ってないから
建物の中に入る
ちょっとカビ臭い
窓にホコリが溜まっている
昭和の校舎は、現在の校舎と比べて天井が低い
天井に色々な配管が剥き出しになっているし
何か、雰囲気も暗いし
窓の外はすっかり夕焼けになっていた
もうそんな時間なんだ
ここよこの部屋が便利そうだったから、この建物は壊さないで残しておいたの
先生が立ち止まった、その部屋
そこは宿直室と書かれていた
昭和の頃は毎晩、若い先生が泊まり込んで校舎を見回ったのよ笑っちゃうでしょでも、そのお陰でこの部屋には宿泊できる環境が整っているからセックスするにはもってこいでしょ
はぁ、そうなんですか
高校の宿直室なんて、オレにはどんな部屋だかちょっと想像できない
正直中を見てみないと、何とも言えないです
先生がドアノブに手を掛けた
宿直室の鍵は開いていた
キィっと軋んだ音を立てて、古い木のドアが開く
あっ、お待ちしていましたっ
あれっ
中に居たのは、メイド服の克子さん
お嬢様っ、ご命令通りにきちんとお掃除しておきましたっ
ニコニコと微笑む、元気印の克子さん
ありがとう克子
宿直室の部屋の中は
手前は木の板のフローリング奥は床が六十センチ位の高くなっていて畳が敷かれている
ああ、中学の用務員さんの部屋が、こんな感じだったと思う
六畳の洋室の中に四畳半の和室が重なっているような印象だ
洋室部分には、石油ストーブと流しがある古い冷蔵庫も
ただ何か、変な感じを醸し出しているのは
四畳半の畳のエリア
そこにはすでに、布団が一組敷いてあって、枕は二つ
枕の後ろには、背の低い小さな屏風
何かエロい浮世絵なんかが貼ってある
それと小さな黒いお盆の上に、コンドームの袋が二つ
部屋の脇には、昔風の大きな鏡台が一つ置いてある
綺麗に掃除されているけれどこれって
えへっ、昭和の時代の売春宿をイメージしてみましたっ
えへって克子さん
墨東奇譚の世界ですよっ
ボクトウキタンって何ですかっ
良いできねちょっと、やり過ぎなところもあるけれど
先生は、克子さんの仕事に満足しているらしい
でも、これは必要ないわ
そう言って、先生はお盆の上のコンドームを摘み上げる
そのままコンドームの袋を、白坂さんに見せつける
白坂さん、これ何だか判る
意地悪く笑う、先生
判りません何なんです
不機嫌な表情で答える、白坂さん
白坂さん知らないんだっ
コンドーム妊娠しないために使うゴム製の道具よっ
白坂さんはハッとする
そそれ、使って下さいお願いしますっ
白坂さんの指が、弓槻先生の手の中のコンドームに伸びるっ
ダメよ
弓槻先生は、サッと手を上に上げる
身長の高い先生白坂さんの手は届かない
あなたみたいな子には、コンドームは必要ないわっ
今日もたっぷりお腹の中に出して貰いなさいっ
白坂さんの顔が、屈辱に歪むっ
そんな白坂さんを無視して、先生は出入り口のドアの方へ向かった
さあてとあたし、今日は急ぎの仕事があるのだから、あなたたちのセックスなんて見ている暇は無いの
コンドームの袋をポケットにしまいながら先生はそんなことを言い出した
えっもしかして、今日のセックスは中止
でも、あなたたち二人はセックスを覚えたてで、一日何回だって絡み合いたくて身体がうずうずしているわけでしょう
オレは、そうですけど
あまた、白坂さんが怒っている
仕方ないから今日のあなたたちのセックスは、克子に監督させるわっ
畏まりましたっ
うわっどうせ、最初っからそのつもりだったんだろっ
えっ、でも先生は不在で、克子さんにセックスしているところを見られちゃうの
克子白坂さんのノルマは五回だから
はい、吉田様の射精を白坂様が五回受け止めればよろしいんですねっ
そういうことよ白坂さん、あなた、何時までに帰宅すればいいの
不意に先生が、白坂さんに尋ねた
はいっ
今日は、お母様は帰宅なさる日でしょお父様は、まだ出張中だけどあなたみたいな良い御家庭の娘さんだと、門限とか決まっているんじゃないの
と特に無いですけどで、できれば七時には帰宅していたいですっ
七時野球部の練習の終わる頃だ
遠藤から電話が掛かってくるんだろう
七時は、無理よ
先生は、きっぱりと言った
もうすぐ、五時でしょ七時にあなたの家に着くには、六時半にはここを出ないと間に合わないわ一時間半で、五回もセックスするのは無理よ
すごい
白坂さんの家の位置とか、通学手段とか完全に把握しているんだ