遠くの学校に行くってプランも、遠藤の親族が贈賄事件に関わっている現状ではまず無理だろう
遠藤の高校野球はもう、おしまいだ
あ、あのキャプテン、みなさん
遠藤が、あたふたと地面に手を付く
お、オレな、生意気なことを言って、申し訳ありませんでしたっ
青い顔で、おろおろと土下座する遠藤
でも、オレ野球が好きなんですっ野球を辞めたくないんですっ
額を土に擦り付け
オレ、やっぱりこの学校に残りますっこのまま野球部に野球部に居させて下さい
安宅キャプテンは害虫を見るような眼で、遠藤を見下ろす
もう遅ぇよ
他の野球部員たちも嘲りの眼で遠藤を見ている
本当、どうしようもねぇクズだよな、お前
絶対に許さねぇからな
つーか、もう死ねよお前
遠藤は、それでも頭を下げたまま叫ぶ
こんなことぐらいで、オレに野球を辞めろっていうんですかッ
その言葉にキャプテンがキレた
ふざけんじゃねぇぞッ、てめぇ
他の部員が、全員でキャプテンを抑える
キャプテン、予選前ですから
そうです、あんなやつ殴る価値もありませんから
殴ったら負けっすあいつ、絶対に高野連にタレ込みみすから
ここは、落ち着いて下さい
オレたちも、内心ハラワタ煮えくりかえっているのをガマンしているんですから
堪えて下さい
キャプテンが叫ぶ
そのクソガキを、オレの見えない所へ連れていけっ
うっす、判ってますキャプテン
二年の二人組あの時、屋上に居た鯉住と杉山が、グラウンドの外に飛び出して来る
ほら、遠藤こっちへ来い
ほら、早く
二人の先輩部員が、遠藤を無理矢理引っ張り起こして連れ去ろうとする
ま、待って下さいオレはキャプテンにまだ話が
抵抗する遠藤
バーカ、ここまで怒らせちまって、話しも何も無いだろう
とにかく今は、オレたちと来い
そう言って二人がかりで遠藤を肩に担ぎ上げる
じゃあ、キャプテン、ちょっとこいつを捨てて来ますっ
そう言うと、鯉住と杉山はエイホ、エイホと掛け声を出しながら、遠藤を運んで行く
待ってくれちょっと、待てってばおい
二人の屈強な先輩部員に担がれて遠藤の姿がどんどん小さくなる
馬鹿の相手をしていて、練習開始が遅くなったさあ、始めるぞ
安宅キャプテンが気を取り直して、部員たちにそう告げた
はいッッ
ようやく野球部の朝練が始まる
何じゃこりゃ
オレは呆れるしか無かった
遠藤くん絡みの映像は、ここまでよ
克子姉が、笑ってオレにそう言う
いや、あのこの後はどうなっているんですかあの先輩二人に運ばれて遠藤は今はどこに
オレの質問に克子姉は
今はまだ録画中よ
録画中ってことは
現在も、何かが進行している
リアルタイムの画像で、見せてもらったりできませんか
校内には居るのだろう
監視カメラで録画しているのなら生中継だって、できるはずだ
それは今はダメよ
お嬢様の計画には順番があるの今のあなたには、ここまでしか見せられないわ
これも、ミナホ姉さんの計画のうち
それより雪乃さんの朝ご飯、早く届けて来てくれないかしら
そうだ克子姉の言葉で思い出した
雪乃が腹を空かせているのは、可哀想だ
オレはおにぎりと味噌汁の盆を持つ
あの、克子姉監禁室てどこ
オレの問いに、克子姉はミッチィを見る
工藤さんあなたさっき、雪乃さんを監禁室に連れて行く時に、お嬢様に付いて行ったわよね
みすずの電話の後、落ち込んでいたミッチィが顔を上げる
は、はいわたくしが警護致しましたが
なら彼と一緒に監禁室まで行ってきてくれないかしら雪乃さんが暴れ出すかもしれないし
任務を与えられたと感じたミッチィは、スッと仕事モードの顔になる
寧さんと遊んでいたマナが、オレの方を見て
ならあたしも行く
お兄ちゃんと雪乃さんを一緒にさせたくないもんっ
むしろマナを雪乃に会わせたくない
雪乃との接触は、マナの心を刺激する
これ以上、マナの依存症をこじらせるわけにはいかない
いやミッチィが居れば充分だあんまりたくさんで行って、雪乃を興奮させたくないあいつ、精神的に今、ヤバイと思うから
さっきのミナホ姉さんとの会話で、現実を突き付けられた雪乃は
危険な状態になっている可能性がある
そういうマナを、横から寧さんが抱き締めて
マナちゃんは、あたしとここでお留守番ねっ
寧さんの微笑み
大丈夫だよっ監禁室の中の様子は、ここからでも監視できるからねっ
そう言って寧さんは、モニターを一つ起動させる
監禁室の中の様子が映る
雪乃は何だか、ぐったりとしていた
夜の時とおんなじだ
動物園のライオンみたいになって、横たわっている
あたしと一緒に、ここで観ていようねっ
寧さんの優しい言葉にマナは
と、小さな声で答えた
こっちです
ミッチィに案内されて監禁室へ
といっても、大した距離じゃない
監視室からバスルームとトイレに通じるドアを抜けてトイレの隣の壁を開く
一見、機械室の壁みたいに見えるけれどそれが隠しドアになってった
その奥の通路を抜けると小さなドアが3つ並んでいる
これは3つとも監禁室になっているそうです
雪乃さんは一番手前の部屋です
ミッチィが克子姉から預かった鍵を開ける
ギィィ
何という狭い部屋だ
床は2畳分しかないし天井は180センチぐらいだ
こりゃ閉所恐怖症になるな
天井全体がライトパネルになっていて、明るく光っているからいいけれど
これで真っ暗だったら、パニックになる
息苦しさ150パーセントの空間だ
雪乃、朝飯を持って来てやったぞ
オレがそう話し掛けるが
白ブラウス一枚で、床にごろんと横になっている雪乃はピクリともしない
おい、雪乃大丈夫か
オレが部屋の中に入ろうとすると
入って来ないで放っといてちょうだいよっ
と、怒鳴り声を上げる
とりあえず生きてはいるらしい
ほら、腹減っているだろ朝飯持ってきたぞ
オレは銀盆の上の食事を見せようとするが
いらないわよっ持って帰って
雪乃は、ご機嫌斜めだ
そう言わずに食っておけよ食わないと体力が保たないぞ
食欲がないのか
オレはちょっと心配になる
あるわけないでしょこんな状況で、食欲があったらどうかしているわよ
雪乃は怒鳴る
まあこれだけ元気なら、心配ないか
食欲が無いなら仕方ないけれどとにかく、ここに置くぞ
オレは銀盆に乗せた食事を、寝転がっている雪乃の横に置く