それでも克子姉がスッと部屋の中が見えるように廊下に出ると
緊急放送室の中を覗き込んだ
ミナホ姉さんが何かのスイッチを入れる
部屋の中を見てハッとする、遠藤
雪乃ぉぉぉぉぉこんなところに居やがったのかぁっ
その遠藤の声が
スピーカーを通して、校舎全体に響き渡った
ここからは全校に中継よ
声も映像もね
ミナホ姉さんが、オレにモニターを見せる
次々に切り替わる、監視カメラ
校内の全ての教室に備え付けられているテレビに緊急放送室の映像が映っている
錯乱した生徒が、女子生徒を人質にして緊急放送室を占拠したんだもの間違って、全校放送のスイッチが入ってしまってもしょうがないでしょ
ミナホ姉さんは最初から、そのつもりで
遠藤の声が全校に轟く
ふざけやがって雪乃てめぇぇ
金属バットを持ったまま、部屋にのっそりと入って行く遠藤
室内に入った瞬間克子姉が、外からドアをバタンと閉める
その姿は中継画面には映っていない
まるで遠藤が自分でドアを閉めたように見えた
緊急放送室の中は遠藤と雪乃二人だけの密室になった
ケンジどうしたのよ、あんた
雪乃は遠藤の変貌に驚いている
その雪乃の姿は
背中の肌に張られていたユニットを外したために制服の上着を脱ぎ
白いブラウスを半脱ぎにしている状態だった
胸元のボタンを外したまま
ブラウスの裾も、外に出たまま
まるでセックスの事後のような姿だった
いやその白いブラウスが
遠藤の記憶をフラッシュバックさせる
さっき、岩倉会長に見せられたオレとセックスしていた時の、白シャツ一枚の姿を思い出させる
雪乃ぉぉお前ここでヤッてたのかよっあいつとヤッてたのかよっ
混乱した遠藤の頭の中で緊急放送室の現在が、視聴覚室の映像と合致してしまう
ふざけやがってぇぇぇぇぇッッ
遠藤が、思い切り金属バットを壁に叩き付けた
バキッッ
きゃあああああっ
雪乃の悲鳴が、スピーカーを通して校舎全体に響く
今まで張ってきた伏線がようやく回収に入りました
執拗に雪乃とメグマナの比較をやってきたのは、このためです
ここからが勝負ですが
土日は睡眠時間の確保だけで終わってしまいました
来週末こそは、どこかへ行こう
白坂創介のモデルになった学生時代の後輩の話
その後輩は、その時に学内の何かの役職を担当していて色々大変だったらしいです
そして、ある日その愚痴を、その時に付き合っていた年上のカノジョに電話で話していたそうです
二時間以上
ちっくしょう、こんなのやってられねぇよ
そんなこと言わないでいつか、この経験が役に立つこともあるわよ
そんなわけねえだろああ、ちきしょうああ、オレは今、本当に時間を無駄にしている
そんなことないわどんなことだって、時間の無駄だなんて思わないで
そういう意味じゃねぇ
お前と電話していた二時間が、本当に無駄だったぜこの時間を他のことに使えば良かったちくしょう
二時間、延々とそいつの愚痴を聞かされた上に、時間の無駄だったと言われたカノジョの立場は
もちろん、すぐに別れたそうですが
サイテーな野郎でしたね
その後は、下級生と付き合っていましたが
あいつらは昨夜、ホテルに行ったらしいしかも、カノジョは処女だったそうだ
そういう情報、私の耳にまで流れてくるというのは
絶対に、本人が言い広めているんですよね自慢話として
白坂・遠藤レベルのゲスなバカ男ってマジで実在します
204.ステップ4
絶対に許さねぇ犯してやるからなっ、雪乃ぉぉッ
遠藤の喚き声が全校中のスピーカーをビリビリと鳴らす
画面の中でバットを持った遠藤が、じりじりと雪乃に近付く
いやあっ、来ないでぇ
恐怖を感じ、叫ぶ雪乃
席を立とうとしたしかし
ダメよヨシくん
メグがオレに必死で縋り付く
行っちゃ嫌ここに居て、ヨシくん
メグがオレの腕を掴んで離さない
そんな間にも遠藤は、雪乃に近付く
興奮剤を飲まされた遠藤は血走った眼をギラギラさせながら、雪乃を見る
来ないで来ないでったらっ
雪乃は近くにあった、本を遠藤に投げ付けて牽制する
がその行為がさらに遠藤の心を高ぶらせる
ふざけんなぁ、こらぁぁ
遠藤は、金属バットで雪乃の前の机をブッ叩いた
バキッ
木片が四散するッ
オレはガマンできなかった
メグを振り切って立ち上がる
ミナホ姉さん、ここから隣の部屋に行けるんだよね
隣の緊急放送室には外の廊下だけでなく、この校長室からも行ける
さっき、雪乃と克子姉はこの小さなドアを潜って、隣の部屋に行ったのだから
どうしても、隣の部屋に行きたいの
ミナホ姉さんがジッとオレの顔を見た
それって雪乃さんを助けたいからそれとも、雪乃さんが遠藤くんに犯されるのはどうしても気に入らないから
その両方だよ
はっきりと、そう答えた
オレは雪乃が傷付けられるのを見たくはない
遠藤みたいな男に犯されるのを許したくはない
そういう身勝手な人間だ
今、あなたが雪乃さんを助けに行ったらどういうことになるか、判っているわよね
メグを見る
メグは真剣な顔でオレを見上げている
今の隣の部屋の様子は、全校に中継されている
ここで、オレが助けに入れば
その様子も学校中の人間に見られる
ブン殴り棒を振り回す黒い森の人間としての、オレの姿を
それでもいいの
ミナホ姉さんがオレに選択を迫る
ヨシくんあたしたちを選んでよ雪乃のことなんて、見捨てればいいのよ
メグが泣きながら、オレに言った
雪乃なんて助けてあげたって、ヨシくんのことを感謝したりはしないわよあの子は、そういう子じゃないの
メグの言うとおりだろう
我が儘で、身勝手でずっと、オレのことを見下している
オレのことなんか気持ちいいセックスの道具ぐらいにしか思っていない
助けてやろうが、どうしようが
あいつがオレを心から好きになってくれることはない
判っている
そんなこと判っている
どっちを選んで、どっちを捨てるとかそういう話じゃないんだよっ
メグに怒鳴っていた
オレがそうしたいから、そうするそれだけだっ
雪乃の心は絶対にオレに振り向かない
雪乃は渡さない
遠藤みたいな男には
やっと、自分の欲望に素直になったわね
ミナホ姉さんがニコッと微笑む
それでいいのよあなたは、自分の欲望とちゃんと向き合うべきなんだから御名穂さん
メグがギョッとした顔で、ミナホ姉さんを見る