お兄ちゃん、寂しかったよ
ああ、マナ
オレは力強く、マナを抱き締めてやる
マナが驚いている
オレも寂しかったよお前がいなくて
マナの顔に、頬ずりする
マナは、嬉しそうに微笑んだ
あーんお兄ちゃんっ
ギュッと抱き締める
マナもどんな時も絶対に無視してはいけない
できるだけ、力をこめて強く抱き締めてやらないと
不安な気持ちにならないように
ヨッちゃん、お帰りっ
寧さんはまだ男の子っぽい格好のままだった
ただ今、寧さん
寧さんの身体も、抱き締める
どどど、どうしたのヨッちゃん
慌てる、寧さん
うん寧さんだ
寧さんも本当は、なるべく抱き締めてあげないといけない人だってことは
夜に寧さんの過去を聞いた時から判っていた
この人には抱き締めてあげる人間が必要だ
だからオレが抱き締める
なあにどうしてのあたしに甘えたくなっちゃったの
そうです寧さんに甘えたいんです甘えさせておいて下さい
オレは寧さんの豊満な身体を抱いたまま頭を優しく撫でる
しょうがないなあじゃあ、いいよしばらく甘えていても
寧さんは嬉しそうにそう言った
はい甘えます
オレは寧さんの背中を擦ってあげる
あ、それ気持ちいいよヨッちゃん
やっぱり心配事が多すぎて、身体が緊張している
抱き締めてみて、判ることがいっぱいある
どうして、外に出て来たんですか敵に見つかる可能性があるのに
監視装置に向かっていたマルゴさんが答えた
状況に少し変化があったんだ
変化
シザーリオ・ヴァイオラ本人では無いけれどヴァイオラが雇ったと思われる人間が、黒い森について調べているっていう情報が入ってね
マルゴさんの言葉に寧さんが続く
渚さんや他のお姉さんたちに迷惑を掛けるわけにはいかないでしょ
黒い森について調べられたら
渚や、元黒い森の娼婦だった人たちが狙われる危険性がある
あたしたちがこのまま隠れっぱなしだとヴァイオラは、搦め手に出るかもしれないよね渚さんを拉致して、人質にするとか
それはマズイ
渚は他の人たちも大丈夫なんですか
今のところはね
マルゴさんが、そう答えた
最低限の護衛者は付いているけれどあんまり、大っぴらに警護するわけにもいかないんだよそれじゃあ、あの人たちが黒い森と深い関係にあって、重要な人物たちだって宣伝しているようなものだからね
だから渚さんたちには、普段通りの生活を続けて貰っているんだよっできるだけ違和感ないようにっ
だから渚は、オレにもコンタクトして来ないんだ
今は可能な限り黒い森との接触を断っている
でもいつまでもそんな状態ではいられないだろそしてヴァイオラ側が、渚さんたちに近付きそうな情報が入っただから、こちらのワイルド・カードを使ったんだ
あたしが姿を現せばヴァイオラは、ここにだけ集中するでしょ
ああ、寧がここに居ることをはっきりと示せばヴァイオラは、ここにだけ戦力を傾けるアメリカから連れてきた手下は少人数だしね
だから寧さんをわざと外に出して姿を目撃させ
学校の生徒は、全て午前中に帰宅させる
ついでにちょっと挑発してみたの
ケイちゃんそっくりの格好をしてね
それで寧さんは、男装しているんだ
シザーリオ・ヴァイオラは挑発に乗るよそういうタイプの男だから
さあここからが勝負だね
前に、とある大学の先生に聞いた話
その先生の大学の付属の私立の小学校で、実際に行ったという特別授業
江戸時代の百姓一揆について考える
(百姓は別称でなく、この場合は歴史用語です)
授業の方法
4年生だか5年生だか(どっちの学年だったか忘れました)5クラスあるうち4組と5組だけ、給食を出さない
給食の時間4組と5組だけは、お腹を空かせたままガマンする
予定では、1週間そうするはずが
3日目にして4組と5組の学級委員が、クラスを代表して教員室へ
何で、僕たちだけ給食が食べられないのか納得できない
他の組は食べているのがおかしい
というか、意味が判らない
これに対する、学校側の回答
それが、一揆を起こした江戸時代の人たちの気持ちだよく、それに気付いたな
特別授業、終了
ええっとその先生は、大成功だったと言っていましたが
本気かよ
今は、私立の学校は個性がないと、少子化の中で生徒が集まらないから
いや、先生その個性は、どうかと思います
208.絆の数
うんミスター・ヴァイオラは今頃、相当、頭にきていると思うよっ
寧さんがヌフフと笑う
あたしが、ケイちゃんの姿をして現れたんだもんヴァイオラは、こういう冗談が大っ嫌いなのよっ
えでも、ヴァイオラ本人は、変装するのが趣味なんですよね
確かいつも映画のキャラクターに成りすまして、裏の仕事に行くって
ヴァイオラは自分がいつも主役じゃないと気が済まない人だから変装するのは、自分だけでいいと思っているのよっ
前にねヴァイオラに気に入られようとした、若い子がいてねその日、ヴァイオラがバック・トゥ・ザ・フューチャーのドクの変装をすることを知って、自分はマーティの格好をして集合場所に現れたのよ
マーティって何ですか
マイケル・J・フォックスの役よヨッちゃん、知らないの
そもそもバック・トゥというのが何なのか判らないのだが
ここで、そんな話をすると寧さんが話しづらくなるだろうから
ああ、フォックスフォックスですね判りました
フォックスってのは映画会社のことだよな
うん何となく、判るぞ
それで、どうなったんですか
ヘッドフォンで鼓膜が破れる様な大音量でヴァ・ヘレンの曲を聴かされる拷問に掛けられて最後は、時計台で感電死させられたらしいよ
まあ、しょうがないよねドクの格好をしているヴァイオラの前に、映画の主役のマーティの姿で現れたんだからそれがせめてビフだったら殺されるところまではいかなかったかもしれないけれど
さてビフって何だろう
いやあえて聞くまい
とっころでさヨッちゃん、あたしの男装姿どうケイちゃん、そっくりでしょう
寧さんは明るく笑っているけれど
本当は、そうじゃないってことオレには判る
これはシザーリオ・ヴァイオラを挑発して、やつの眼をここに釘付けにするための苦肉の手段で
寧さん自身は本当は、ケイさんの格好はしたくなかったろうと思う
そっくりかどうかは、オレには判りませんオレケイさんには会ったことがありませんから
オレは寧さんの眼を真っ直ぐに見て、答える
オレにとってはどんな格好をしていても、寧さんは寧さんです