今日もギリギリです
31.フラッシング・寧
なっ何なんですかっ、あなた
雪乃が、奈島センパイを睨み付けるっ
しかし、センパイはフフーンと笑って、余裕の表情
そんな怖い顔しなくてもいいじゃんかっホント、可愛くないなぁっそれに、あたしは先輩だよっ一応、二年生だからさっもうちょっと、礼儀正しくしてくれてもいいんじゃないっ
完全に、奈島センパイのペースだっ
まあ君のことは、とりあえず顔は覚えたから、もういいやっ聞いてた話よりも、可愛くなかったのがちょっと残念だけど、元々あたしは、君のことなんてどうでもいいしっっ
ぐっと口ごもる、雪乃
激しい敵意の眼で、奈島センパイを睨む
雪乃のこれまでの人生の中で、初対面の同年代の女の子にここまで否定されることはなかったのだろう
それも自分よりも、美しい容貌の少女に
しかしセンパイは、そんな雪乃の敵意を完全にスルーするッ
ところでさ遠藤ケンジって、どの人
雪乃と遠藤
奈島センパイの口から、カップルの名前が順に出てきたことに教室の中は騒がしくなる
だから、どの人ちょっと、みんなで指さしてみてくれないかなっいくよーんっいっち、にーの、さんっはぃっ
センパイの号令で、男子生徒を中心に十名ほどが一斉に遠藤を指さすッ
教室中の視線も、全て遠藤に集中
な、何なんですかっオレに何か用ですかっ
ビクつく遠藤
何とか格好を付けようとしているみたいだけど
ふぅん君が、遠藤ちゃんねぇ
美しい金髪少女が、ジロジロと思わせぶりな視線で遠藤を見る
何かさぁ君、一昨日の放課後と昨日の昼休み、校舎の屋上で吉田ちゃんをボコったんだってねっ
奈島センパイは、いきなり核心を突くッ
教室中に激震が走った
ギョッとする、遠藤
生徒同士の小さな囁き声が部屋の中に拡がっていく
やっぱり、そうだったんだっ
何々、吉田くん、遠藤くんに何かしたの
白坂さんが、二股かけてたとか
それは無いだろ
吉田が白坂さんにまとわりつくから、遠藤がキレたんだろ
確かに吉田くん、いつも気持ちの悪い眼で白坂さんのこと見ていたけどさ
でも、見てるだけだったろ追っかけ廻したり、声掛けたりはしてなかったし
いきなり殴るってのは、やり過ぎじゃね
えーっ、遠藤くんて人に暴力を振るうような人だったんだぁ
うん、ちょっとゲンメツーっ
ていうかさ、遠藤って野球部員だろっ
さっき、次の練習試合にレギュラーで出るって自慢してたぜ
これってさ、暴力事件てやつなんじゃないの
吉田くん、まだ顔に痣が残ってるよねぇ
かなり強く叩かないと、あんな傷にはならないんじゃないの
吉田が警察とか高野連とかに訴えたら、野球部ヤバくねっ
時期が時期だよな
夏の大会、出れなくなるとか
クラスのやつらが好き勝手言う間奈島センパイは、大きな青い瞳でニッと遠藤を見つめている
口元には、薄っすらと笑みを浮かべて
さあ、いったい何のことですぅオレには全然、覚えがありませんけどぉ
遠藤は、真っ正面から先輩の言葉を否定するッッ
おでこに汗をたらーりと浮かべながら
ふうん君、そうやって誤魔化せば、どうにかなるって思っているんだ
金髪のセンパイは、腕を組んで遠藤を見下ろしている
だからっ、オレは知りませんって吉田のやつは、勝手に転んだんじゃないですかッなっ、そうだろッ吉田ぁぁ
遠藤が、大きな声でオレを恫喝する
ギョロリと眼を剥いてオレを睨むッ
しかし残念ながら、オレも昨日までの吉田ではないっ
今日のオレは、砂の詰まった革袋で怖いチンピラさんをブッ叩いてきた、吉田ちゃんなのだッ
遠藤ちゃんは、ああ言っているけどさ吉田ちゃん、どうなのさっ
奈島センパイが、期待の眼でオレを見る
雪乃もオレを見ている
それは、言わないでという、お願いの眼じゃない
これは、言ったら、許さないという敵対の眼
じゃあ、しょうがないっ
はいっ、遠藤に殴られましたっ
教室全体が、騒然とする
遠藤が、クッと奥歯を噛みしめるッ
雪乃は顔を伏せて頭を抱えた
う、嘘だぁっそいつは嘘を吐いているんだぁ
大声で喚く、遠藤
だいたいさっ、あんた誰なんだよっ吉田の知り合いか吉田と組んで、オレを陥れるつもりなんだろッそうだろっ、そうに決まってるっ
キレた遠藤が、奈島センパイを指差して叫ぶ
金髪のセンパイは、ニヒヒヒッと微笑んで
あっ、そうかみんな、まだ入学して一ヶ月経ってないもんねっあたしのこと、知らなくてもしょうがないかっ
先輩は教壇にトンと上がって、クラスの生徒全員を見渡す
はーい、この中であたしが誰なのか知っている人っ
スッと細い手が上がる
山峰さんだ
長身で黒髪ボブカット切れ長の瞳のスポーツ美少女
おっ、君、知ってるのっ
山峰さんは答えた
部活の先輩から聞きました二年生の奈島寧さんですよね
その瞬間運動部員を中心にソソゾという驚きの波が拡がるっ
あっ、あたし聞いたことがあるっ
そう言えば、部活の先輩に聞いたっ
えっ、あれってただの噂じゃなかったの
じ、実在したんだっ
こんなに綺麗な人だったの
えっ、すっごい不良なんでしょ昔、剣道場に放火したとかっ
あたしは、援助交際の元締めやってるって聞いてるけど
売春相手のヤクザを刺し殺したって聞いたわよっ
こんな美人が、まさか
でも、金髪だし染めてるよね
ブルーのカラー・コンタクトしてるし
センパイは人々の囁き声を聞いて、満足そうにクッククと笑う
そうですっあたしがこの高校で一番の不良美少女、奈島寧ちゃんですっ
教室の中が一瞬にして静まった
センパイのあまりにもアッケラカンとした自己紹介に
な、何て天然いや、明るくて気さくな人なんだッ
そ、その不良の先輩が何だって、オレと吉田の話に首を突っ込んでくるんですッ何か、色々誤解があるみたいですけれど、この件は、オレと吉田の問題ですんでっ先輩には全然関係無いですからっ
遠藤は、理路整然と奈島センパイの介入を拒否したつもりらしい
でもさあ
この金髪の美人センパイはそういう理屈の通る人じゃないんだよねぇ
悪いんだけどさ関係あるかないかはさ、君じゃなくてあたしが決めることだからっ
ほら
奈島センパイの顔が微笑から、怒りに急変していく
教室全体が、一気に凍り付いた
か、関係ないものは、関係ないだろぉっとっとと出て行けよっここは一年の教室だぞっ誰か、先生呼んで来いよっ弓槻先生じゃなくてもいいからっ先生なら誰でもいい呼んで来いよッッ早くッッ