オレは、山峰さんにそう言った
山峰さんは、両手で顔を覆って静かに泣いている
吉田ちゃぁんそうじゃないでしょっ
奈島センパイが、ジロッとオレを見る
そこは、感謝の言葉でしょっ
そうだ、山峰さんは
オレのために、奈島センパイに文句を言ってくれたんだ
オレもクラスの一員だとはっきり言ってくれた
あありがとう、山峰さん
顔を伏せて泣いていた山峰さんがふわっとオレを見上げる
えっという驚きの眼で
オレたちの眼が合う
ありがとう本当に、ありがとう
雪乃の視線を感じる
雪乃が、睨んでいる
というわけで、クラスの中での遠藤と雪乃の評判はガタ落ちになります
というか、ここでやっておかないと明日から作中ではゴールデンウィークに入りますので、クラスの描写ができません
私は二十九日まで仕事ですがんばろっと
32.君は壊れているね
奈島センパイと教室を出る
階段を上がって、屋上に向かう
三階まで上がったところで、奈島センパイが急に立ち止まった
見ると教室移動なのか、三年生がいそいそと歩いている
その中に、岩倉会長の姿があった
あっオレたちに気付いた
やばいな岩倉さん、雪乃の味方だから、オレのことを毛嫌いしてるだろうし
と、思ったら
岩倉さんは、奈島センパイに向かって深々と頭を下げた
そして、そそくさとその場から立ち去って行く
あの子さぁ、校内であたしに会うと必ずああやって挨拶してくれるんだよっ何でなんだろうねっ
奈島センパイは、いつもの様に笑っている
センパイ、岩倉会長のことは知っているんですよね
うん、顔だけはねっ
話をしたこととかは
一回も無いなぁ
えっ岩倉さんて四人目なんですよねっ
一人目の克子さん
三人目のマルゴさん
四人目が岩倉会長で
奈島センパイは五番目
そうらしいねっ
らしいねって
ほらあの子は、あたしたちとはジャンルが違うじゃんかっ
ジャンル
不良組のマルゴさんと奈島センパイと、優等生の岩倉さんてこと
あたしたちは真逆だからさあんまり会わない方がいいんだよっ
そう言ってセンパイは、トトトンッと軽く階段を駈け上っていく
追い掛ける、オレ
屋上は、少し風が強かった
でも、天気はからりと快晴
むしろ風が肌を撫でるのが、さわやかで気持ちがいい
そこいら辺に座ろうかっ吉田ちゃん、克っつんのおやつ出してっ
はいはい
オレは、朝、克子さんに貰った紙包みを開ける
中には、フレンチトーストとカレーパンが3つずつ入っていた
紅茶のペットボトルも3本
あれ何で3本
うん、美味しそうだねっ
そうですね
オレが、カレーパンに手を伸ばそうとすると
あっ、そうだっ
突然、奈島センパイがスットンキョな声を出した
どうしたんです
オレが尋ねるとセンパイは、制服のブラウスのボタンを上から外して
ええ
白いブラが、ちょろっと見える
センパイ金色のペンダントをしている
センパイの巨乳の谷間に輝く十字架型のペンダント・ヘッド
奈島センパイは、首の後ろの金色の髪の中に手を入れてそのペンダントを外した
これねっ、すっごく大事なペンダントなのっ
あっ、そうなんですか
オレはとりあえず、相づちを打ってみる
うんお祖父ちゃんがね、あたしが生まれた時に記念で作ったんだって見て見て、ここに名前が入っているでしょ
確かに十字の表面にNEIというアルファベットが刻まれている
ホントだ生まれた時からずっとしているんですか、これ
そうだよっ、ずっとずっと大切にしてきたの
奈島センパイは、そう言いながらツカツカと屋上の金網の方へ近寄っていく
彼女は、思いっきりペンダントを空に投げたッッ
ええーっ
金色の十字架と鎖が、キラキラと初夏の陽光に照らされながら飛んでいく
ちょセンパイっっ
ペンダントは屋上の金網を越えて校舎の下に
オレは、急いで金網へと走るッッ
落ちて行くペンダントは裏庭の花壇の中に、落ちた
右から3つめ
落ちた辺りをはっきり確認したッ
吉田ちゃん、取ってきてっ
センパイが、オレに強く命令するッ
はいっ、拾ってきますッ
屋上の入り口の鉄扉に急ぐオレの背中に、センパイが再度、声を掛けてきた
待って、吉田ちゃんっ
な、何ですかッ
オレは、立ち止まって振り返るッ
途中で、ピングレのジュース買ってきてっ
センパイの眼はマジだった
ぴんぐれ
ピンク・グレープフルーツ・ジュース裏庭を出る直前の自販機で売ってるからっ
ああああーん
よく判らないけれど、とにかく買ってくればいいんだなっ
判っりましたぁぁっ
ダッシュよっダッシュ
行ってきますッ
オレは鉄のドアを潜り走るッ
ダダダダダと、一気に一階まで駆け下りるッ
裏庭へ出る廊下を抜けて
あっこれがセンパイの言ってたピングレの自動販売機だな
でも、帰りにしよう
とにかく、センパイのペンダントを探さないと
オレは花壇へ向かう
あれれ、この辺に落ちたと思ったのに
金のペンダントは、どこにも無いッ
まさかっ落ちたときの衝撃で、土の中に埋まっちゃったとか
オレは、花壇の土の凹んでるところを手で掘り返してみるッ
まだ芽を出したばかりの草葉の裏も
花壇のコンクリと土の隙間も
花壇の周囲も、もう一度よく見てみる
無い
右から3番目じゃなかったのかな
オレは、隣の花壇も探してみる
葉っぱを引っ繰り返して
土も掘ってみる
その隣の花壇も
やっぱり、無い
君が探しているのは、これかい
背後から、声がした
知っている人の声だった
振り向くとぴっちりとしたジーパンに白シャツ姿のマルゴさんが、ニコニコと微笑んでいた
手に奈島センパイの金の十字架のペンダントを持って
良かった
オレは、へなへなとその場に座り込む
一気に体中から、汗がどっわーと吹き出す
マルゴさんが携帯を取り出し、誰かに電話する
寧、見てた
マルゴさんは通話しながら、校舎の屋上を見上げている
そこには金網越しに大きく手を振る奈島センパイの姿があった
全部見てたっ
マルゴさんの携帯から漏れて聞こえてくる奈島センパイの甘い声
で寧は、どう思う
吉田ちゃん、ピングレ買った
ううん彼は、真っ直ぐにここに来て、ペンダントを探してた途中も全力疾走だったよ
じゃあ、合格マルちゃんは
あたしも合格でいい