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ああ、香月家の別荘があるのか

もっとも、わたくしは日本の海には入ったことが無いんです葉山では、こうやって景色を見るだけでしたわ浜辺まで入ったのも、初めてです

みすずが言ってたな外国の南の島に、プライベートビーチを持っているって

はいわたくしたちが、水着になって海に浸かるのは、その島だけですわそこは入り江になっていて、絶対に外から覗けないようになっていますから

うん日本の大混雑の海水浴場なんかで、香月家の令嬢が泳ぐことはできない

お兄様は海はお好きですか

いや、実は初めてなんだこうやって、浜辺に来たのももちろん、海で泳いだことなんか無いよ

アニエスも、オレの顔を見る

いや、もちろん電車とかバスとかの窓から、海を見たことぐらいは今までだってあるよでも、こんな風に浜にまで下りて来て、のんびり海を見るのは初めてなんだ

オレは、アニエスの頬を撫でる

オレも、アニエスと一緒だよ

アニエスは、キョトンとしている

パパも

学校で臨海学校とか、無かったんですか

後ろから、麗華が尋ねる

ああ、麗華もオレのことについては、よく知らないんだっけ

行かなかったていうか、行かせてもらえなかった

そういう家だったんだよ

お家が、貧しかったのですか

麗華が、心配そうに尋ねる

いや、普通多分親父は普通にサラリーマンだったし、母親も店とか経営しているし

では、ご両親がお忙しかったのですね

今度は、瑠璃子が尋ねる

そうじゃなくって二人とも、オレに興味が無かったんだ特に母親の方がだから、オレのために金を使うのが惜しかったんだと思うよ

オレ、子供の頃から家族でどこかへ遊びに行ったことなんて、一度も無いんだだから、海水浴なんて来たことが無いんだよ市民プールになら、一人で行ったことがあるけれど

オレは水平線を見る

広い

そして、その水平線から次々と押し寄せてくる、波

波音の響き

潮の香り

海鳥が飛んでいる

今日は快晴で青い空に青い海

ああ、遠くにヨットが浮かんでいる

視界全体に広大な光景が広がっている

ああ、海ってこういうところだったんだなテレビとかで見たことはあったけれど、やっぱり実際に来てみると違うね凄いよ

オレは、正直な感想を言った

はい凄いですの

アニエスが、オレに寄り添ってそう言う

これ、どこまで続いていますの

んアニエス

ずーっと向こうよ遠い外国まで繋がっているのよ

瑠璃子が、優しく微笑んでアニエスに言う

外国

ああイーディが生まれ育ったアメリカとかは、この海の向こうだ

そのイーディは、一人で波と追いかけっこしている

びちゃびちゃと、波を蹴散らせて

楽しそうだな

あたしだってこの辺の海なんて、入らないわよ

背後から、雪乃が言った

あたしはいつも夏と冬は、ハワイだからパパがハワイにコンドミニアムを持っているのよだから、いつもそこで過ごしていたわ日本の海なんて、汚くて入れないわよ

そしてハッと息を吐く

あのコンドミニアムへももう、行かれないわねあそこは、あたしのお気に入りだったのにさっチクショッ

憎々しげに雪乃は言う

絶対にまた、あたしはハワイへ行くわあのコンドミニアムだって、取り戻してやるんだからっあたしあんたたちに奪われてものは、全部取り戻すそう決めたのよ決めたんだからクッ

オレには何とも答えようが無い

例え、雪乃がサングラスの下で泣いていたとしても

うん海を見ていると、吸い込まれそうな気分になってくるよな何かちょっと、もの悲しい気分になってくる

波音がオレの心も洗ってくれる

でも、寂しくはありませんわお兄様が一緒に居て下さいますから

オレの手を、ギュッと握りしめる

お兄様がどちらかへ飛んでいってしまわないように瑠璃子が、しっかりとお兄様の手を握っておいて差し上げますアニエスさんも、お兄様を捕まえておいて下さいね

アニエスも、オレに抱きつく

どうしたんだ瑠璃子

瑠璃子は濡れた眼で、オレを見ていた

わたくし勘違いをしておりました

お兄様が、いつもどっしりとわたくしのことを、ギュッと抱き締めて下さるのでわたくしは、お兄様が心が頑強なお方なんだと思い込んでおりました

お兄様もわたくしと同じなのですねいいえ、わたくし以上の制限をお受けになって生きてこられたのですね

いやいや、それは違うよオレの場合はただ単に、親に無視されてきたってだけで香月家の家名を背負って、いつも色んな人たちの視線の中で生きてきた瑠璃子やみすずの方が大変だったろオレなんか、大したことないよ

いいえわたくしたちは注目はされましたが、決して無視はされませんでしたわいつも、最上のおもてなしをしていただいておりました何よりも香月様は、わたくしたちを愛して下さっていました

こうやって離れてみて、よく判るんですお祖父様は、本当にわたくしたちのことを愛しく思って下さっていたことに

瑠璃子はオレの奴隷となって以来、初めてジッちゃんのことをお祖父様と呼んだ

お兄様にはずっと愛して下さる家族がいらっしゃらなかったのですか

昔はいたよバァちゃんがでも、もう死んじゃったから

でも、いいんだ今はオレには、みんながいるから

今度は、オレの方から瑠璃子とアニエスを抱き締める

オレのことを愛してくれる人よりもオレが、愛していい人がいっぱいいることが嬉しいんだオレ愛されるよりも、愛していたいよみんなが好きだ大切なんだ

眼の前の海が

オレの心の中の思いを浮上させる

愛されるよりも、愛したい素敵なお言葉ですね瑠璃子をお兄様みたいになりたいです

あなたが好きです愛していますお兄様

瑠璃子が、オレにキスをする

お兄様の全てが愛おしいです

潤んだ瞳がオレを見ている

あなたが本当は、一生懸命に背伸びをしてだけど、わたくしたちには心配させないように、優しく微笑んでいて下さることが判ったから瑠璃子も、もうお兄様に愛させるだけでは嫌ですわたくしも、愛したい

そして、瑠璃子はアニエスを見つめる

アニエスさんわたくしは、あなたのことも好きですわたくしの妹として大切にしてあげたい心から、そう思っています

ああ言葉にしないと、形にならない事ってあるんですねわたくし、誓いますアニエスさんのことは、お兄様と一緒に一生守って差し上げますわたくしあなたのお姉様になりたいのよ

そうですわわたくしの妹になって下さいお願いしますアニエスさん

アニエスは、オレを見る

アニエスは瑠璃子が嫌いか

アニエスは、ぷるぷると首を振る