もっとも関さんの突き込みも、麗華には大したダメージを与えていないようだ
麗華は、フットワーク軽く逃げ回る関さんを追う
ダメ動きが直線的よっ
麗華の拳も蹴りも関さんには当たらない
なあに、あなたステッキがなくなったら、剣道の足捌きまで忘れてしまったの
関さんの言葉に、麗華は一旦立ち止まって体勢を整える
そうよ摺り足で、相手の呼吸を感じながら間合いを詰めるそれが、藤宮さんの闘い方だったじゃない
うん剣道の足捌きに変えた途端、麗華の動きは安定する
スピードも、この方がいい
もっともそれでも、わたくしには勝てないけれどね
関さんの言葉に、麗華はさらに加速する
拳を剣に見立てて剣道のフットワークで、関さんを追い詰める
トゥアーッ
麗華が、関さんに拳を突き出した瞬間
関さんは、その拳をかいくぐり麗華の踏み込んだ足を払う
麗華はつんのめって転んだ
あらあら、何やっているの藤宮さん
関さんは、挑発的に微笑む
んぐっ
麗華は、すぐに立ち上がって関さんに襲いかかる
スピードの差は、歴然だった
関さんは、麗華の攻撃を躱し続けるどころか攻撃の勢いを利用して、何度も麗華を転ばせる
麗華ばかりが、何度もベランダの埃っぽい床に倒される
剣術でない、ただの体術なら関さんの方が、麗華よりも遥かに上手だ
ねえ、バカの一つ覚えみたいに引っ繰り返ってないで少しは頭も使ったらどう
麗華は飛び起きてまた、関さんに挑みかかる
本当の麗華は、こういう負けず嫌いな性格だったっけ
大徳さんだったらあなたみたいな人は、カウンター攻撃で仕留めるんだろうけれどねあたしの体格じゃ、カウンターを仕掛けたら、こっちの身体が潰されちゃうかもしれないでしょだからこうするのよっ
麗華が殴り掛かった瞬間関さんは、ススッと身体を捻る
麗華は、そのままつんのめって身体ごと、コンクリの壁に激突する
これなら、あたしの身体は痛まないものねっ
基本的に、関さんの方から麗華に攻撃は仕掛けていない
全部、麗華が関さんを攻撃して関さんは、その麗華の力を利用して、転ばせたり、激突させたりするだけだ
たまに一撃を加えることもあるけれど関さんの攻撃は、麗華には効いていない
関さんの打撃力が弱いのかあるいは
わざと麗華の急所を外して打ち込んでいるのか
イーディが、2人の闘いをふんふんふんと感心しているところをみると
試合らしく、関さんが急所を外しているというのが正解なんだろう
これが本当の殺し合いなら
この褐色の武闘娘は、もっと興奮しているはずだ
はあ、はぁ、はぁ、はぁ
ふぅ、ふぅ、ふぅ、はぁ
そんな闘いが10分近く続いた
2人とも、額から汗を流し疲労の色が見えてきている
しかし見た目の様子は、麗華の方が酷い
何度も倒されているから自慢の英国スーツは、すっかり埃まみれだし
髪の毛もグシャグシャになっている
一方、関さんは
暑いのか、ブラウスの胸元のボタンを1つ外した
黒いレースのブラジャーが見える
なあに、もうフラフラなのこんなの美容体操にもならないわよっ
片手で汗を拭いながら関さんは言った
関さんこそお疲れのご様子ですが
冗談あたしは、このまま後、2時間だって平気よ誰かさんと違って、一度も床とキスしていないからね
そうは言うが麗華の攻撃を素早く躱し続けている関さんの方が、運動量は多い
お覚悟ッ
また麗華が、ダッシュする
甘いっ、甘いっ
闘牛士の様に身を躱してまた、麗華をつんのめらせる、関さん
麗華は、床に膝を付く
はぁ、はあ、はぁ、はぁ
肩で息をしたまま麗華は
もう、いいです関さん
わたくしの負けでいいです負けでいいですから
床に眼を落としたまま麗華は、言った
こんな闘い、何の意味も無いじゃないですか
と、関さんは
ツカツカと麗華の前に歩いて麗華の胸元を掴み上げる
パァンッ
麗華を一発、平手打ちにした
闘いに意味があるとか無いとか、そんなことはどーでもいいのよっ
関さんが、麗華に怒鳴る
どんな闘いでも始まってしまったのなら、最後まで闘いなさいっどんな手を使ってでも、勝ちを掴みなさいっあんたっ、警護人でしょっ
関さん本気で怒っている
ギュッと麗華のスーツを握りしめて
麗華は呆然と、関さんを見つめていた
どんな強敵が相手だろうとどんな理不尽な状況に、追い込まれようとも死ぬ気で闘い続けるのよ絶対に、負けを認めないで最後まで諦めるなッ藤宮麗華ァァッ
わたくしたちが諦めたらわたくしたちの後ろに居る人たちは、どうなるのよっ何がなんでも、負けるもんか、負けるもんか、負けるもんかでしょっ
関さんわたくしは
あなたはねそういう意識が欠けすぎているのよ警護人とは絶対に負けてはいけないっていう執着心が抜け落ちているのっだから、谷沢チーフはあなたには一度も大事な警護を担当させて来なかったのよ
麗華はトップ・エリートの警護人となっても、担当する要人が決まっていなかった
あっちを見て
関さんが、部屋の中のオレたちを指差す
あなたの家族よそうよねっ
麗華がオレたちを見る
もし、彼があなたの眼の前で賊に襲われて、殺されてしまったらあなたは悲しい
せ、関さん
いいから、答えなさい
それは悲しいです
瑠璃子様が、もしも凶弾に倒れたら
か、悲しいです
そうでは、アニエスちゃんが殺されてしまったら
ハッとする麗華
それは嫌絶対に嫌ですっ
オレの腕の中の小さな金髪の少女を見て、麗華は叫ぶ
ああアニエスちゃんのことを考えて、ようやくリアルなイメージが掴めたみたいね
別に、藤宮さんに悪気があるわけじゃないのよこの人にとってはあなたや瑠璃子様は、自分が何かしなくても、すでに守られているイメージなのよ
関さんが、こちらを向いて言った
オレにはマルゴさんたちが
瑠璃子の後ろには、香月セキュリティ・サービスの姿が見えている
だけどアニエスちゃんについては、危険を感じているのね
麗華は、ここ数日のお屋敷の異常に気付いている
ミナホ姉さんはアニエスを、あくまでも復讐のターゲットとして捉えようとしている
だから昨日から、わざとお屋敷を留守にしている
オレたちが、アニエスと心を通じ合わせていく姿を見ているのが耐えられないんだ
今夜はアニエスを、無慈悲に犯すのだから
藤宮さんあなたが守らなければ、悲惨なことになってしまう命があるのよそういう命に対して、あなたは闘いを放棄することが許されるの