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翔お姉さんが、言った

ミナホ姉さんには、夕方までに戻ると言ってある

確かに多少の時間がある

だったらもう一度、浜に行きたいなアニエスと波打ち際を歩きたい

さっきは、見ていただけだった

今度は歩きたい

濡れた砂浜の感触や海の水に触れさせたい

だったら、この下がここのホテルのプライベートビーチになっているから使わせてもらうように頼んでみるわ

翔お姉さんが、フロントに電話を掛ける

警備の問題があるんだな

ここには、瑠璃子がいる

部屋の外で待機している香月セキュリティ・サービスの人たちは、瑠璃子がジッちゃんに香月家から出されたことを知らない

今の任務は瑠璃子の警護だと思っているだろう

またさっきみたいに北九州の組織の連中に襲撃される可能性もあるしな

オーケイよ、行きましょう

翔お姉さんは受話器を置く

ザザザーンと波飛沫

やっぱり、海は凄いな

冷たいですのっ

オレと瑠璃子に左右から手を引かれてアニエスは、波打ち際を歩く

3人ともサンダルや雪駄を脱いで裸足になっていた

シュワワワーッと白い泡の波がオレたちの足下を洗っていく

波が引きまた次の波が押し寄せる

ザザザーワーッ

日本の海は、こういう青なんですね

わたくしが、いつも見ている海とは色が違います

瑠璃子の言っているのは、香月家のプライベートビーチのある南の海のことだろう

やっぱり、緑色なのかい

はい、エメラルドグリーンですそれから、陽射しも強くて、空の青も違います

それは緯度によって、太陽光線が変わるからよ

翔お姉さんがオレたちに言った

太陽の光が、地球に降り注ぐ時に、紫外線も、可視光線も、赤外線もみんな空気の層を通過する時に減衰するのよでも大気圏の空気の層の厚さが、緯度によって違うでしょ赤道に近い場所だと、日光は真上から垂直に降り注ぐから、大気の層を貫いてくる厚さは最短になるわその分、大気に減衰される量が減るのよ逆に極に近くなると、大気の層を斜めに突っ切るから通り抜けてくる空気の層は厚くなるだから、たくさん減衰するってわけだから緯度によって、太陽光は微妙に変化しているのそれせいで人間の眼で見て、美しいと感じる色も変わってしまうらしいわ

赤道に近い地方だと、エメラルドグリーンや鮮やかなピンクが映えるのは、そのせいらしいわ

イーディがやって来て瑠璃子に何か言う

アニエスさんに一緒に貝殻を拾おうって、言っているわ

貝殻

真緒ちゃんのお土産にしようって

イーディは、ニヒヒと笑う

貝殻

アニエスは、首をかしげる

そんな彼女に、イーディは手の中の巻き貝の貝殻を見せる

こういうのがいっぱい落ちているから、一緒に探そうって言っているわ

瑠璃子がまた通訳してくれる

綺麗ですの

アニエスは、貝の内側のキラキラ光っているところを見て言う

うんもっと落ちているだろうから、みんなで探してみようよ

はいですのっ

アニエスは、ニッコリと微笑んだ

レイちゃんも、一緒に探してくれよっ

オレは、後ろで雪乃の監視をしている麗華に言う

ちなみに、雪乃は1人で、ビーチのサマーベッドにふんぞり返って寝そべっている

ホテルの人に、勝手にトロピカルドリンクを注文して

どうやら、雪乃にとってはそれもオレが支払うべき、昼飯代に入っているらしい

行ってらっしゃい、この子はわたくしが見ているから

翔お姉さんが、麗華に言った

お姉ちゃんらしく、ちゃんと妹たちの面倒を見るのよ

麗華はアニエスの方へ、走って来る

アニエスレイちゃんも一緒に、探してくれるってさ

アニエスが、麗華に手を差し出す

その小さな手を、麗華は嬉しそうに握った

アニエスの手を引いて、2人で貝殻を探しに行く

イーディは大きな木片を見つけてきて、それをスコップにして砂の中を掘っている

ホッ、ホッ、ホッ

うーん、時々イーディは、イヌじゃないかと思うような挙動をする

瑠璃子がぴったりとオレに寄り添う

何でもありません

瑠璃子は顔を赤らめる

こうやって、お兄様と海を歩くのはとっても良い思い出になると思います

わたくし忘れません

昔お祖父様とロンドンの街を散策したことがあるんです

オレの手を握りしめて瑠璃子は言う

お祖父様という言葉に、オレは反応する

わたくしがまだ、幼稚園の頃ですわお祖父様が、サビィル・ロウにお洋服をお仕立てに行かれた時に一緒に付いて行ったんですその帰りに少し、街の中を散歩してあ、もちろん警護の方谷沢さんたちも、ご一緒でした

瑠璃子の幼稚園の頃の話か

午後で、空は気持ちの良く晴れていましたわたくしたちは、テムズ川の方へ出たのですけれどそこにとってもお洒落なイギリスの紳士が歩いていらっしゃったんですよ黒い燕尾服にシルクハットも被っていらっしゃって、銀のステッキ手は白い手袋で立派なおヒゲの方でしたその方が、口笛で何かの曲を吹いていらっしゃったんですよ

わたくし、何かその方が、絵本から飛び出して来たように思えてきてジッと見てしまったんですそしたら、その紳士はわたくしに気付いてわたくしにウインクをして、立ち去って行きました

そうしたらわたくしが、その紳士に見とれていたのがお嫌だったんでしょうねお祖父様が、とっても不機嫌になられて

おいおい、ジッちゃん

何だ、あんな口笛なんぞに負けやしないって、おっしゃってロンドンの街の真ん中で、謡を唸られ始めたんです

謡謡って何

お能の上演の時に、横で謡われているうーんと、判りませんか

ごめん、オレ、よく判らないんだよ

瑠璃子は、ふんっと腹に力を込めて低い声で謡い出す

高砂やぁ、

この浦舟にぃ、帆を上げてーぇ、

月もろともぅに、出潮のーぉ、

波の淡路の島影やぁ、

とぉおく鳴尾のおーき過ぎぃーて、

はぁや、すみのえに着きにけり、

はぁや、すみのえに、着きにけぇーりぃぃー

謡い終わってハッと息をつく

うふふこれを大声で、ロンドンの街中で謡われたんですよっお祖父様ったら

瑠璃子は笑う

お祖父様この謡がお好きなんです酔われると、今でも、よく謡われますこれ時代劇とかでも、謡われているの聞いたことありません結婚式の場面で

ああ、そう言えば、聞いたことあるかも

この高砂の謡曲は、結婚式でよく使われるんですだから、お祖父様瑠璃子の結婚式でも、謡ってやるからっておっしゃって

ふわっと瑠璃子の眼に、涙が浮かぶ

昔、ロンドンで

横断歩道を歩いて渡っているだけなのに屈強な黒人さん2人に、指を差されて笑われたことがあります