肉体的には完全に屈服させられている
精神的にも同じ
だけど、可奈センパイは心まで折られたことを認めたくないから
自分の方から、オレの彼女になろうとしているんだとテニス部の仲間たちには話している
寧のことも自分が、寧を親友にしたのだと
無理矢理に力尽くで、そうなったのではなく
自分の意志で、そう決めたのだと思い込もうとしている
可奈ちゃん、本気だよ本気で、ヨッちゃんの恋人の座をメグちゃんから、強奪するつもりだよねどうする、ヨッちゃん
返り討ちだよそんなの
可奈さんにはお兄ちゃんは、取られたくないもん
おやおや、マナちゃんも参戦ですか
レイちゃんが笑う
寧ちゃんはこれを狙っていたのですか
そうレイちゃんに言われて寧は
まあねここまで、上手くいくとは思っていなかったけれど
あたしたちさもうちょっと、お互いの関係に緊張感を持たないといけない時期に入ったんだよ最近の家族は、内側でナアナアになり過ぎてたから
可奈ちゃんは手強いよ甘く見ていると、ヨッちゃんだって嚙み付かれるからねあの子は、損得でしか物事を見ていないんだから自分にはメリットが無いと思ったことは、何もしないよその代わり、これは得になるって思ったことには、力一杯食い付いてくるけれどね
可奈センパイは基本的に、悪人ではない
ただ自分の欲求に正直なだけだ判りやすいぐらい、ストレートに
彼女は彼女の明快なルールで生きている
可奈ちゃんと交流することはあたしたち家族にとって、本当に良い勉強になると思うんだ
その寧の意見は正しいと思う
オレたちはオレたちと根本的に違うルールで生きている可奈センパイと、接することで色んなことを学ぶだろう
もっと、慎重になるあるいは、剛胆に
みすずや瑠璃子や美智たちにとっては初めての普通の子の友達だし
あたしがマルゴお姉ちゃんとアメリカへ行くまでにヨッちゃん一人で、可奈ちゃんをねじ伏せられるようになってね
寧は、自分が不在になる期間オレがちゃんとやれるのか、心配しているのか
最近、マルゴお姉ちゃんは黒い森の行動にはノータッチでしょ
それはマルゴお姉ちゃんは、アメリカで女子格闘技のビジネスをするんだから、今は裏の仕事からできる限り離れていたいってこともあるんだろうけどそれ以上に、自分が動かなくても、もうヨッちゃんたちは大丈夫なはずだって信じているんだよね
マルゴさん抜きのオレたち
護衛ならイーディも居るし、美智ちゃんも強いし、レイちゃんや翔お姉さんとも連携が取れているんだからさ
だから自分は、一歩退いている
でも、あたしはマルゴお姉ちゃんみたいに、信じるって割り切れるほど強くないからやっぱり心配なんだよねヨッちゃんたちのこと
だからあたしは、可奈ちゃんを連れて来たんだあの子は、家族を引っかき回すだろうけれどそれで今、沈殿しちゃっている澱みも浮き上がるだろうし
確かに、この4ヶ月間でオレたち家族は、かなり馴染んだ
その代わり馴れ合いも、増えている
その隙を可奈センパイは、突いてくる
さっきの発言だって今、オレの女の中でメグとの関係が一番危うくなっていることに、可奈センパイは気付いているんだ
オレたちの普段のパン販売の様子と
オレとみすずたちとの関係を比較して
可奈ちゃんみたいな子を御せるようにならないとヨッちゃんも、本当に成長したとはいえないよ判っているよね
ああ可奈センパイは
寧の不在を埋めるための新しい人材であると同時に
新たなる試練なんだオレにとって
Darling、Darling、Darling
女子運動部のグラウンドに到着するとイーディが、オレに飛びついて来る
アタシちゃんと、メグミを見ていたヨ
オレ隠れて見てろって言わなかったか
細かいことは、どうでもいいのネ
いやいやほらメグが、こっちを睨んでいる
ちょっとちょっとあれ
えー、今度は藤宮麗華なのぉ
今日は、テレビの人ばかり来るわね
朝練で、アーニャを見ている陸上部員たちはレイちゃんの訪問に、驚いている
それとあっちの子は
ああ、確かパン屋くんの妹だよ
マナは、前にもここに来たことがある
オレたちに気付いて、こちらへやって来る竹芝キャプテンにオレは挨拶する
キャプテンは、オレを無視して
藤宮麗華さん
あなたが優勝した高校の時の大会会場で観ていましたあ、姉が剣道をやっていましたので
レイちゃんの高校時代4、5年前か
とっても、素晴らしかったです藤宮さんの剣は、とっても綺麗で
それはありがとう
あ、握手していただけますか
レイちゃんは笑顔で竹芝キャプテンと握手する
あの後どうして剣道をやめてしまわれたのですか
竹芝キャプテンは、尋ねる
はいやめてませんよ別に
ああ剣道の大会に出るのは、やめましたですがわたくしの剣の道は、まだ続いています
レイちゃんは撲殺ステッキをヒョイと持ち上げる
あんなテレビに出るようなことがですか
いえ、あれは仕事の一部です本来のわたくしの業務は重要人物の身辺警護ですご存じですよね
あはい何となくは
竹芝キャプテンは、答える
現実にはあんなテレビでやっているみたいな派手なアクションはありません実に地味な仕事です何時間も護衛として貼り付いているわけですから
そこにどうして、剣の道が続いているんですか
わたくし、スポーツの剣道には満足しましたから
スポーツという完全にルールの定められた世界の中で、一番を目指すというの高校時代までで、もういいかなって思ったんです
そんなスポーツとしての剣道だって、もっともっと奥の深いもののはずです
それは判っていますただわたくしは、剣の道というものが本来は何のために生まれたのかを考えたんです
武術ですから、人を殺すためですか
竹芝キャプテンの顔は暗い
人を守るための剣だって、あるでしょう
日本では警護員のような仕事でも、拳銃などで武装するわけにはいきませんからねわたくしの今の剣は、これですステッキならどんなに重く、強靱であろうとも持ち歩きを制限されることはありませんこれを奮って今は、人を守っています
片手でビュンとステッキを振る
切っ先はブレずに、ピタッと止まった
レイちゃんの鍛錬された肉体と技を示している
スポーツとしての剣道はわたくし個人と、せいぜい出身校や道場の名誉のためにしか力を奮えませんでしたしかし、プロの護衛人となった今では己の鍛え抜いた技で、人を守っていますその力と技術で、報酬も得ていますこれには、スポーツの剣道では得られない満足があります