いずれにせよ、夜見子は3姉妹の中で、一人だけ突出して優遇されていたと思う
ツキの巫女の子に、ヨミの子がいればその子が、次の巫女です逆に、巫女がヨミなら、血が濃くならないように、次の巫女はツキの子が選ばれる
だからツキとヨミが、交互に巫女を勤めていくのか
でも、わたくしにはわたくしには、もう巫女の力はございませんわ
夜見子が白いベッドの上で、震えている
彼女の裸身を、マナが背中から抱いていた
わたくしには、もう
そうですわですから例え、巫女の血が薄くなるとしてもわたくしが次の巫女を引き継ぐしかないのです
わたくしはもう、覚悟しておりますから
うんとちょっと待って
マナが抱きかかえている夜見子に、尋ねる
ね、夜見子さん夜見子さんの考えている巫女の力ってどんなのさ
夜見子はマナを見上げて
人々を正しい方向へ強く導く力ですわ
それって夜見子の言うことを、みんなに聞かせるってことだよな
自分の意志通りに人々を行動させる力
夜見子がオレを見る
夜見子の力はまだ弱いけれど、そういう強制力だった
オレは、さらに問う
それだけですわ
驚いた顔で夜見子は、オレを見る
他にどんな力があるとおっしゃるのです
サトリの力セックスを通して、相手の心の全てを見極める力ですよね
ご主人様は、わたくしとの心月を介したセックスをご経験なさってセックスには、そういう力があることをご存じですから
オレは巫女が仲裁の時に、ヤクザたちとセックスするという話を聞いて
てっきり、巫女にはそういう力もあるんだろうと思っていた
無いのか鷹倉神社の巫女には、そういう力は
ただ人を意のままに操る力しか無いのか
その力だけを使ってヤクザの仲裁なんてできるのか
あると思いますわただ夜見子様だけが、ご存じないだけで
美智は月子を見る
月子様はご存じなのでは
月子の背筋がピクッと震える
ですからお祖父様に、まんまと騙されたのですわ
わたくしは鷹倉神社が、長い歴史を持つ由緒ある神社であることは知っていました
そうだみすずは、最初、オレにそう言った
ですがお祖父様は、鷹倉神社に明治の始めに流れ着いた渡り巫女のお話を延々となされ鷹倉神社の巫女の力は、全て渡り巫女に由来するものの様に印象づけられました
ええですから、てっきり鷹倉神社そのものについては、考えないようになっていましたわ
でもどうして、鷹倉神社に明治政府の弾圧で行き場を無くした渡り巫女が集まってきたのでしょうね
もしかして鷹倉神社は、渡り巫女が集まって来る前から巫女の力が有名な神社だったのではありませんか
月子を見るみすず
そうか元から巫女が評判になっている神社だから
漂泊の渡り巫女たちが、助けを求めて来たということも考えられる
わたくしは、何も知りません
先ほどのあたしと寧ちゃんの話を聞いていらしたら、お判りだと思うのですが
さっきのってアマテラスとか、スサノオとかの話か
太陽神アマテラス原型はアマテルだったという説もありますがそれと、月の神ツクヨミこの2つの信仰は、とても古いものです太陽と月、自然に対する畏敬の念から生まれたものですから
しかしただ自然を畏れ奉るだけの信仰は、英雄の時代に入ってドラマチックなストーリーが語られるようになって、徐々に消えて行きます太陽神アマテラスは、英雄ドラマの登場人物の1人となって生き残りましたが月の神ツクヨミは、ついにドラマチックなストーリーの登場人物として確立することはありませんでした
古事記や日本書紀の中ではほとんど登場しないわけですから
そのツクヨミを祀っている神社ということは鷹倉神社は、メッチャメチャ古いのネ
イーディが、笑顔でそう言う
そうか古事記や日本書紀の中のストーリーが形成される前から鷹倉神社は、ツクヨミを祀る神社として成立しているのか
さてあたしが注目したのは、その後です太陽神アマテラスと月の神ツクヨミの信仰に、英雄神スサノオのストーリーが浸蝕していったという神話形成のパッチワークですわ
神話は新旧の幾つもの物語が、付け加えられ、貼り付けられ、あるいは削り取られて一つの形に整えられていく
鷹倉神社の巫女の力もパッチワークされたものではありませんか
みすずは穏やかに尋ねる
渡り巫女による力は新しいものでそれ以前に、古来から伝わる力もあったのではありませんか
渡り巫女の力と鷹倉神社の巫女が元々持っていた力
その2つの力が合わさってより大きな力となるのではありませんか
みすずの問いに月子は
わたくしは何も知りません
下を向いたままそう答える
そうですかでも、わたくしはさっきから、ずっと気になっているんですわ
瑠璃子が、ルナの髪を撫でながら言う
さっき、ルナさんはこうおっしゃっていましたお父様が、お前が男の子だったら良かったのにとおっしゃっていたと
それはルナ様が男子なら、神主の跡継ぎが決まるからですわ今のままでは、次の巫女が男子を産むのを待たなくてはなりませんから
ああ仲裁の子にも、男の子がいないのなら
あの、今、神社にいらっしゃる方は月子様たちのお母様のご姉妹ですわね清美さんとおっしゃるのならヨミの子ですから、先々代の神主と巫女の間のお嬢さんということですよね
優しい笑顔で、瑠璃子が尋ねる
はいしかし一度、鷹倉神社を離れた者が、再び神職に戻ることは、本来許されないことですわ清美様は神社を離れられてからは、巫女の修行も止めてしまわれていますし
清美さんにはお子様は
月子の言葉を途中で遮り瑠璃子が尋ねる
男の子が2人と女の子が1人いらっしゃるはずです
そのお嬢様は、今から修行を始めれば巫女になれるのでは男のお子様たちだって神主の候補となりますでしょう
いえそれは許されませんなのに何も知らない人たちが、清美さんたちを鷹倉神社の神職に据えようとしています
鷹倉神社を乗っ取ったヤクザはその清美さんに、巫女の代役をさせるつもりか
えっと、確か雲龍会山森組7代目組長佐竹信雄だっけ
そっちの大ボスは
では、お尋ねしますその清美さんのお子様たちの父親は、どなたですかどのような職業の方ですか
瑠璃子の問いに口籠もる、月子
ヤクザだよネ
イーディがそう言った
ヤクザ
亡くなった前の巫女の姉妹はヤクザと結婚しているのか
イーディ何で、そう思うんだ
さっき、ルナが言ってたね自分は神饌ダッテ
シンセン
あの、ゴメンシンセンて、何だ