いいわよね桜子
桜子さんは小さく答える
あ、そうか桜子さんは、オレと桃子姉ちゃんのこれまでのことを知らないから
桃子姉ちゃんが側にいてくれればオレが桜子さんに無茶なことはしないだろうって安心するのか
みすずもいるしな
さらに年上で良識派っぽい美子さんもいる
このお姉さんたちなら、オレが暴走することはないと感じているだろう
みんな、桜子さんにとっては子供の頃からよく知っている人たちだし
さあ、今度こそ本当にご飯よご飯、ご飯、お昼にしましょう
桃子姉ちゃんが、そう宣言する
そして、それぞれが注文する料理を決め
桃子姉ちゃんを中心に食事会が始まった
あら、あたしのスパゲッティも美味しいけれど桜子のも良さそうね
桃子姉ちゃんの華やかさと明るさで特別室の中は、いつの間にか和気藹々となっている
女子のそれも超お嬢様学校のノリだから、オレは肩身が狭いけれど
レイちゃんは女子校出身だから、何となく溶け込んでいる
克子姉も娼館という閉じた世界で、女だけの生活を何年も体験してきているから
女子会のノリに付いて行っている
鞍馬さんも、お元気そうで何よりだわ
はい歌晏様も、お変わりないございませんか
わたくしは元気よすこぶる元気うちのセバスティヌスは、公ちゃんのところのアメリカ人に負けて落ち込んだままで困っているんですけれどね
美里とも普通に明るく話している
美里が黒い森の娼婦になったことは知っているはずなのにそのことには一切触れない
やっぱり桃子姉ちゃんは、名家のお嬢様たちの女王《クィーン》なんだよな
女王としての振る舞いが、判っている
みすずや瑠璃子は、桃子姉ちゃんの領域には届いていない
藤宮さんは勤務時間中ですから無理でしょうけれど公ちゃんのお姉さんは、ワインでもお飲みになられたらいかがここのレストラン、なかなか良いワインを揃えているみたいですし
桃子姉ちゃんは、克子姉のことまで気遣ってくれる
ありがとうございますでも、あたし車で来ていますから
克子姉は、新しい娼館から美里を車で連れて来た
当然、帰りも車で送って行くことになる
あら残念ねじゃ、美味しいワインはまた今度、次の機会にしましょう
桃子姉ちゃんは、明るくそう言う
よろしければ、黒森のお屋敷にいらした時に秘蔵のワインを開けますわうちのワイン倉には、他所にはないビンテージがありますから
お屋敷は、戦後まもないころから政財界の人たちの社交クラブをやっていたから古いワインも地下にはある
白坂創介が支配されていた時代には、勝手に飲まれたり、売り飛ばされたりしないように番頭の森下さんが、特別なビンテージのワインだけを秘密のワイン倉に隠していたらしい
それは素敵なお話ですけれど今は、公ちゃんの前で酔っ払うのは、ちょっと怖いわね
酔い潰れたらオレにレイプされるかもしれないと感じているらしい
心配いりませんはそういう無粋なことは、うちの子は致しませんから
克子姉は、微笑んで言う
意識が飛んでいたら歌晏様が、お楽しみになれないでしょうし
あらあら、楽しいのかしらああいうことって
とっても楽しいですわよ、桃子お姉様っ
まり子が、2人の会話に割り込む
まり子はすっかり、女の悦びに目覚めさせていただきましたからっうふふっ
桃子お姉様も早く、こちらにいらしたらいいのに
わたくしは、まり子みたいに単純じゃないのよ
いいえわたくしも、公に出会うまではそう思っていましたけれど意外とシンプルなものですわ男と女は、そうなるようにできていますから
まり子は、経験者の余裕でそう言った
さて食後のコーヒーやお茶も出たし、そろそろいいかな
オレはレイちゃんに言う
食事中は、この特別室にも料理を運ぶボーイさんたちの出入りがあったけれど
今なら、一切の人の出入りを止めることもできる
ああ、公ちゃんわたくしも、もういい頃合いだと思うわ
桃子姉ちゃんは知ってるんだ
ただちょっと席替えをしてもいいかしら
席替え
ええと、まず桜子はわたくしの隣の席に来てみすずと瑠璃子、美子さんが桜子の隣のそちら側の席に公ちゃんとまり子は、わたくしの隣に座って
鞍馬さんと公ちゃんのお姉さんは、申し訳ないですけれどそちらの奥に藤宮さんと警護役の皆さんは済みませんけれど面談の最中は立っていただけます少し威圧した方が良いと思いますから
桃子姉ちゃんの言う通りに、席替えすると
特別室のドアに向かってオレたちがテーブルにズラッと並んで座っている
テーブルの反対側は、誰も座っていないから
まるで面談というより、学校の入学試験の時の面接みたいな感じになっている
レイちゃん、美智、不知火さん、セバスティアヌス(山田梅子)さんという名だたる警護役が、脇を固めているし
その面接官席の中心にいるのが桜子さんと桃子姉ちゃんたち3大名家の令嬢たちだ
公ちゃん、いいわよねこれで
ああ、確かにこの方が良いねさすがだよ、桃子姉ちゃん
これからやって来る人に対する威圧効果もあるが
この方が、桜子さんも守られていると感じてくれると思う
じゃあ、レイちゃん呼んでくれる
はい、少々、お待ち下さい
レイちゃんが、部屋の外と通話できる唯一の手段である内線電話で指示を出す
すでに彼はこのレストランの近くに移動して、入室の許可を待っていたらしい
部屋の外に誰かが来たというチャイムが、すぐに鳴る
では、よろしいですね
レイちゃんが、オレに尋ねた
オレの指示でレイちゃんがドアを開ける
外には高価そうなスーツを着た2人の男性が立っていた
前に立っているのは、20代前半ぐらいの青年
後ろの男は警護役だ顔付きと体格で判る
レイちゃんに誘われて青年たちが特別室の中に入って来る
驚愕している桜子さん
そう、その男性は
あら、お久しぶりね高橋さん
桃子姉ちゃんが、ニヤッと笑って挨拶した
歌晏桃子様香月みすず様、瑠璃子様美子様まで
桜子さんの許婚者だった名家の青年一方的にメールで婚約破棄を宣言してきた男
高橋慶彦は部屋の中の豪華な顔触れに驚いていた
桜子の問題にわたくしたちが駆けつけるのは、当たり前のことですわ
桃子姉ちゃんは、高橋慶彦を睨んでそう言う
日本にまた地震が来ると言いまくっている外国人がいるらしい
そういうことを言う人も、それをネットで取り上げる人もどうかしていると思う
昔の富士山大噴火予言や、ノストラダムスの1999年とか、2012年に地球が滅ぶ予言とか