桃子姉ちゃんが、オレに尋ねた
そんなのそのパーティに行く人に、誰か知り合いがいないか調べてその人の車に乗せてってもらうよ
誰も知り合いがいなければ普通に公共の交通機関を使って行くよお金に余裕があれば、タクシーもアリだなそんなつまらないことでカッコ付けてても、意味が無いしさ
ま普通の人は、そうするわよね
桃子姉ちゃんは、桜子さんを見る
でもそういう時に、よその家の方に頭を下げて車に乗せていただくこともパーティ会場で恥をかくことを覚悟して、車を使わずに済ませることもできないのがわたくしのお父様なのです
お父様はお父様がお考えになられている狩野家の家格に相応しい行動をすることだけが、全てでございますから
そんなの形ばかりで、中身が無い行動ですけどね
桜子さんの父親が、どういう人間なのかよく判った
結局、臨時雇いにしたってああいうレベルの人を使っているんじゃあね狩野家の家柄が泣いているわよ
申し訳ありませんお待たせ致しました
やはりスーツ姿の白髪交じりの髪の体格の良い人がさっきの黒服警護員の代わりに、やって来る
グレーの髪の男は、桜子さんを見て
桜子様、皆様、大変ご心配なさっておられますよ
申し訳ありません不知火さん
ということはこの人が、不知火シエさんのお父さんか
シエ、お前が付いていながらどうしてこんなことになる
不知火父は、いきなり娘を叱りつけるが
不知火さん、親子でのお話は後にしていただけません
桃子姉ちゃんが、不知火父を制した
奥の部屋でお待ちなんでしょうわたくしのお祖父様と桜子のご両親が
は、はいご案内致します
不知火父も、桃子姉ちゃんの華やかな政治的圧力にはかなわないようだ
さ、行きましょう皆さん
桃子姉ちゃんが、オレたちに声を掛けたのはオレや克子姉が一緒に奥に入ることを、不知火父に止められないようにするためだろう
この不知火父という人も自分の都合でしか、物事を見極められない頭の固い人なんじゃないかと感じた
ど、どうぞこちらへ
まるで自分の家のようにオレたちを中に誘導するし
ここは香月家の施設だぞ
狩野家はホテルの一室を、香月家から借りているだけで
いや、この展開だとジッちゃんが部屋を貸しているのは狩野家の当主じゃなく、歌晏さんかもしれない
もし、そうだとしたら狩野家の警護役である不知火父が、この場を仕切ろうとしているのは全面的におかしいということになる
不知火父が、歌晏さんと狩野家の当主夫妻が居る奥の部屋のドアをノックする
内側から、ドアが開いた
ああまた知らない人だ
スーツ姿のまだ30代前半ぐらいの男
雰囲気で判るこの人も警護役だ
しかも、かなり強いと感じた
オレも工藤流古武術6級だからそれぐらいは判る
あら、あなたも来ていたのクリス
桃子姉ちゃんが、青年を見て言う
公ちゃん、紹介するわ他の子たちは知っているからこの人は、お祖父様の現在の警護チーフのハンス・クリストファー・アンダーソンよ
外国人なのか
いや、美男子だけれど髪や肌や眼の色も、どう見ても日本人にしか見えないけれど
始めまして、黒森様山田太一と申します
美青年は、そうオレに自己紹介した
へやまだ、たいち
えっとクリス何とかというのは
もちろん、それはわたくしが付けたニック・ネームよ
もしかして山田梅子さんのお兄さんですか
はい、妹がいつも、お世話になっております
山田青年は、深々とオレに頭を下げた
ああ、オレたちの後ろの開かれたままの廊下に通じるドアの向こう
美智や不知火シエさんと並んでいるセバスティアヌス(山田梅子)さんがとっても恐縮した表情をしている
あ、黒森公ですオレの方こそ、いつも妹さんにお世話になっています
オレも、慌てて頭を下げる
どうぞ、御前がお待ちになられております
山田青年は、大きくドアを開く
ああ部屋の奥に、椅子に座った歌晏老人と40歳から50歳ぐらいの夫婦が見えた
桃子姉ちゃんが、スッと頭を下げて礼をする
みすずやレイちゃんたち克子姉も、一緒に深々と頭を下げた
だから、オレも頭を下げる
ん外の廊下に居る子たちは、別室に下がって良いぞ瑠璃子くんたちの警護をしていてくれこっちは、少し長い話になるかもしれんからな
歌晏老人は警護人用の部屋を間に挟んで、ドア2つ向こうの廊下に居る、美智たちに言った
チラッと振り返ると、美智、山田さん、不知火シエさんの3人も廊下で歌晏老人に向かってお辞儀をしていた
不知火くんいや、父親の方だ
わ、わたくしでございますか
不知火父が、慌てて歌晏老人に聞き返す
判っていると思うがわたしたちが話している間に、君の娘を尋問したりしないでくれよ
歌晏老人は、笑顔でしかし鋭い目で、不知火父に言う
君の娘さんが、ここで見聞きしたことはもしかしたら、香月家の機密事項かもしれんのだわたしが許可するまで娘さんと、いかなる会話をすることも禁じるいいね
は、はい歌晏様のご命令を遵守致します
不知火父は、狩野家の警護役なのだから
本来は、歌晏家の当主の命令に従う必要は無い
だが、家運の傾いた現在の狩野家は
香月家や歌晏家から様々な援助を受けることで何とか存続している
不知火父も、そのことはよく判っているから歌晏さんに逆らうようなことは、絶対にしないはずだ
太一、お前が不知火くんを監視していろそっちの部屋から外に出すな娘たちに絶対に接触させるな
歌晏さんは、不知火父の言葉を無視して自分の警護役に、そう命じる
いや、あの歌晏様わたくしは、歌晏様のご命令に従いますとそうお約束したのでございますが
すっかり戸惑っている不知火父
わたしが他家の臣下をそれも警護人を信用するはずがないだろうそうは思わないかね警護人という職業は、主人を守るためならどんな卑劣な手でも、ためらわずに行う職業だとわたしは思うがね君は、そうではないのか
別に返える必要は無いとにかく君のことは、太一に監視させるおい、女の子たち今のうちに、瑠璃子くんたちの部屋に行きたまえそして、良いというまでドアをロックしておくんだいいね
歌晏老人は、美智たちにそう言うが
3人の警護役の少女たちは、歌晏老人に返事もしなければ瑠璃子たちの居る隣室へ向かおうとも、しなかった
部屋の奥のさらに奥歌晏老人にお辞儀したまま、動かない
美智、歌晏様のおっしゃる通りになさい
まずみすずが、美智にそう言う
かしこまりました、みすずお姉様では、歌晏様歌晏様のおっしゃる通りに行動致します