ジッちゃんは、真面目な声でそう言うと元の明るい声に戻り
歌晏には、わたしからも連絡しておくお前たちは気にしなくて良い落ち込んだ老人の相手は、同年代の友でなければ落ち込みが増すばかりだからなだから、お前にはみすずたちのフォローを頼むあの子たちも、他家の元気なお嬢さんたちに当てられてヘコんでいるだろ
そっちはお前に任すそれと、狩野聡子くんのフォローもこっちでしておくから
お前にとっては、桜子くんの母親は立派な大人に見えるんだろうがわたしや歌晏は、聡子くんが神崎家に生まれた時から知っているんだ聡子くんもわたしたちが救ってやらねばならない名家の娘なのだよ
そうか今年82歳のジッちゃんにとっては
桜子も桜子の育ての母の聡子さんも立場は同じなのか
歌晏のやつは平然と、10年間は狩野家の当主は定めないなどと言ったらしいがわたしも歌晏も80代だ10年先に生きているかどうかの保証は無いそれよりも歌晏の孫娘と、みすずたちがお前を認めているからだから、聡子くんはお前に大切な娘を託してくれたのだお前たちの将来性に賭けてくれたということだ
ああそうだよな
オレを信用してくれたわけじゃない
名家・神崎家の娘で名家・狩野家に嫁に行った聡子さんは
歌晏桃子姉ちゃんや、みすずたちのこともずっとよく知っているんだよな
だから、桃子姉ちゃんたちを信じてオレに桜子を託してくれた
聡子くんも夫が押し込めとなり、息子を連れて狩野家から実家に戻らなくてはならないことはショックなはずだ娘として可愛がっていた桜子くんをお前に奪われたこともしかし、聡子くんも名家の娘だお前たちのような若者には絶対に、辛い顔は見せたくないと思っている堪えているのだ
だから、聡子くんのことはわたしの方で何とかするすでに聡子くんの学生時代からの親友の女性に来てもらうことになっている神崎家の当主にも、絶対に聡子くんを責めないように強く言ってある
ジッちゃんオレたちには何かすることはある
無い強いて言うなら気が付かないフリをしていてくれ年長の人間には、年下の人間に気遣われるのが一番辛いからな
ジッちゃんは、歌晏老人のこともオレに言っている
オレたちが、歌晏さんに余計なフォローをしないようにって
オレは、ジッちゃんに答えた
桜子とシエさんは、後から香月セキュリティ・サービスの人が黒森家に連れて来てくれることになったので
先に帰って良いとレイちゃんから連絡が来た
オレたちは、また専用エレベーターでホテルの地下のVIP専用駐車場に降りる
しかし行きにオレたちを連れて来てくれたレイちゃんは
歌晏老人のところから、戻って来ない
克子姉の車は、5人しか乗れないし
オレたちは7人だ
さて、どうしようかと思っていると
みんなこっちだよ、こっち
駐車場の奥に、マルゴさんが来てくれていた
うわ、久しぶりのマルゴさんの業務用バンだ
白いボディに、今日は丸子典礼というロゴが取り付けられていた
あれ、今夜の祝勝パーティはマルゴさんも主役ですよね
何でここに居るんだ
そうだけどだから、準備はマナちゃんたちでやるって、あたしは追い出されたんだよ
それに君がいないとパーティが始められないから、さっさと連れて来いって寧にも言われてきた
とにかく、車が2台あれば全員が乗る
克子姉の車は、美里を下ろすために駅前ホテルに寄らないといけないけれどあそこはお屋敷まで15分も掛からない距離だし
さあ乗って
マルゴさんに言われてオレたちは、車に乗り込む
警護役は、それぞれの車に乗らないといけないから
美智は、克子姉の車の方だ
旦那様は先にお屋敷に戻られた方がいいですから
うん、オレはマルゴさんの車の方に乗ることにする
エレベーター・ホールの奥から
歌晏老人が、桃子姉ちゃんやまり子や山田太一さんや山田梅子さんやたくさんの警護役を連れて、駐車場へやって来た
桃子姉ちゃんが微笑む
まり子、あなたはこのまま、あっちの車に乗せてもらったら
すると、まり子は
公わたくしは桜子たちを待って後から行くから、先に帰ってて
大きな声で、オレに叫ぶ
オレは返事をするが
ああ、桃子姉ちゃんやまり子たちの後ろの歌晏老人は
とっても不機嫌な顔をしている
やっぱり、オレたちにヘコまされたのが後を引いているんだ
歌晏さんまた、遊びましょうね
笑顔で元気に歌晏老人に叫ぶ
小僧お前
今度は歌晏さんのルールじゃなくってオレたちのルールで、遊びましょう楽しみにしてて下さい
オレがそう叫ぶと
歌晏老人の表情が緩む
ふん好きにしろ
オレたちはそれぞれの車に乗り込みホテルから出発する
こうしてちゃんと最後には主役をやってくれるから良信くん(黒森公くん)には感謝です
とりこぼし分、何とかしましたはぁ
1254.余韻 / 押し掛けて来た客
・マルゴ・スタークウェザー・クロモリ/19歳金髪碧眼のアメリカ・インディアン今は黒森家の養女
・黒森マナ/15歳旧名・白坂舞夏雪乃の妹主人公の性奴隷
克子姉の車には美里と美智が乗った
マルゴさんの商用バンにはオレと、みすず、瑠璃子、美子さん、ヨミが乗り込む
香月家所有のホテルを出て、空が暗くなった夕方の街を抜け黒森家の屋敷に戻る
お兄様、お休みになっていて下さい
少し疲れた
やっぱり、名家の人たちとかお嬢様たちとの接するのはくたびれる
オレからしてみればやっぱり異世界の異文化の人たちだもんなぁ
あのマルゴお姉様、お尋ねしたいことがあるのですが
みすずが不意に、マルゴさんに言う
マルゴさんは運転しながら、ルームミラー越しに笑顔でみすずに答える
あのマルゴお姉様はどうして、こんなに急いで格闘技のビジネスを始められたのですか
確かにマルゴさんは、この半年間格闘技興行を行うために奔走しまくっている
自分の肉体を娼館の警護役から格闘家に改造することから初めて
スポーンサーを探したり、格闘ビジネス界の人とコネを作ったり
あたしは今年19歳だからさ
キョーコさんが昔、言ってたんだけれど人間は20歳までに、自分の基礎が定まってしまうって
基礎
考え方とか、生き方とか自分自身が世の中を渡っていくための個人的なルールとかかなそういうのって20歳までに出会った人の影響とか、それまでの生活の中で身に付けた物とかにずーっと縛られてしまうまあ、20歳を過ぎても軍隊に入るとか、刑務所に入るとか、故郷とは全く違う文化圏で暮らさないといけなくなるとか、そういう場合は基礎から変わっちゃう場合もあるんだろうけれどさでも、ほとんどの人の場合20歳までに体験したことが、残りの人生に影響するんだと思うんだよね