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 ミナホ姉さんの言う通りオレたちは、通常の方法で、松下姉妹を奨学生にしていない  香月家の娘である瑠璃子の力で無理矢理、香月家の財団の奨学生にネジ込んだのだ

それでイズミさんはっ、茉莉花ちゃんが真樹ちゃんにしている話を怪しいと思ってだから、不良少女の扮装をして、無理矢理付いてきたんだねっ!

 寧の指摘が正しいのなら  イズミは、オレたちが、真樹たちをダマそうとしているのに違いないと、最初から思い込んでいたから

だから何が何でも、話をぶっ壊すつもりでついてきた

 つまり不良少女の扮装には、ちょっと無理があったけれど  理屈としては筋が通っている

もしかしてイズミちゃんは、イズミちゃんのお祖父さんにお願いして、真樹ちゃんたちをどこかの音楽財団の奨学生にしてもらうつもりだったのっ

わたしにはそんなお願いはできないですニャンお祖父様だって、理事はなさっていますけれど奨学生の審査員ではないですしでも

来年度の奨学生に、真樹お姉さまと美樹さんが応募できるようにご相談してみようとは、思っていましたニャン

 そこまで考えていたのなら

イズミはオレが思っていたような、馬鹿な娘ではない

 直情的ではあるけれどイズミの行動には、意味と理由があった

もちろん香月世界文化交流センターみたいな大きな財団の奨学生になれるのなら、その方が真樹お姉さまや美樹さんに良いことも判ってますニャン香月家のお嬢様とか鳥居家のお嬢様と親しくなれるということも

 イズミはちゃんと判っている  こんなにちゃんと判っている子なのに  なぜ、オレはイズミが自分勝手で頭の悪い娘だと思い込んだんだろう

さて、公これからする話をよく聞きなさい今のあなたが、理解しなくてはいけないことだから

イズミさんのお祖父さまが音楽の世界では特別な立場に居る方だということは、さっき話したわよね

 確か世界的に有名なオーケストラ指揮者だと聞いた

ある分野において特別な立場に居る人の子供や孫が偉大な祖父と同じ道に進むということは、よくあることだわ

 イズミの父親は祖父と同じ音楽の道に進み、オペラ歌手になっていると聞いた  オペラ歌手の親から生まれたイズミも今、音楽科高校で声楽を学んでいる

その分野において特別な地位に上ることができた人は自分の経験から、子供や孫ににどんな教育を与えれば良いのかよく理解しているし学習するための最適な環境を用意することができるわその分野の中においては人脈やコネクションだって持っているんだから何歳になったら、どこで、どんな先生に、何を習えばいいのか自分の子供や孫が、自分と同じ世界に上手に導いてあげられるのよ

 ミナホ姉さんの言葉をイズミはうつむいて聞いている

でもねそういう特定の分野で一流の親に育てられた子供が、親や祖父と同じようにその世界の一流の人間にはなかなかなれないのよそういうケースは、とても稀なの

 え!

もちろん、子供の頃から専門の教育を受けてきているのだからその分野のプロにはなれるわでも、たいていは良くて一流半、だいたいは二流から三流の人間になって終わるわ親と様な一級のプロになれる人は、本当に珍しいのよ

確かにスポーツなんかの世界でも、名選手の子供がプロになっても、親みたいに活躍ができないってことは多いよねっ逆に親が二流や三流のプロ選手だった人の方が親を越えて、名選手になったりしてるかもっ

 その例えなら、オレにも理解できた  確かに二世の選手は良くいるけれど、一流の名選手の子が親と同じレベルの大活躍をするということは少ないと思う

どうして、そうなると思う

 ミナホ姉さんがオレに尋ねた

幼い時から、全てにおいて最高の環境が与えられているのにどうして、そういう子供は、親のレベルにまで成長しないのかしら

親から与えられているだけだから

与えられるだけだと自分から、獲得していく力が育たないってこと

わたしもそう思うわ

子供が自分で求める前に一流の親が、プロになるために必要だと思うものを、何もかも与えてしまうからでも、それは全て正しいものだとしても、子供はずっと親から与えられ続ける大量のものを、ひたすら受け入れて消化し続けることになるわそれだけに精一杯になってしまうから自分自身で、今の自分に何が必要なのかを考えて、自分の力でそれを探して、独力で一つ一つ獲得して行く力が育たないのよ

 親の与える環境が良すぎて与えられるものを消化するだけの人間になってしまう

それでも、思春期になって、親に対して反抗するような子供なら親が自分に与えようとするものに対して批判的になるから、自分のことは自分で考えて自立しようとすることもあるけれど親が偉大過ぎて、子供が親のことを心の底から尊敬していたりすると、親が自分にしてくれることは何でも無批判で受け入れるようになってしまうわ

 ミナホ姉さんは、話し続ける

そういう子は、自分で自分がするべきことを判断する力が弱くなるわ次から次へと親が判断した必要だと思われるものを受け入れていくだけだから目の前で起きていることについて、自分でどうしたら良いのか考える能力が育たないのよ

 何でも親に言われるままに、依存してしまうから自立しない人間になってしまう

イズミさんて、そういう子でしょそう思わない

 ミナホ姉さんの言葉にオレたちは、イズミを見る

イズミさんの性格はお祖父様やご両親との関係から、そんな風になってしまったんだと思うわイズミさんはお祖父様やご両親に言われたことは、どんなことでも無条件で、何も考えずに受け入れる子なのよその意味や理由は深く考えないでただ、そのまま受け入れるそうしないと、お祖父様やご両親から与えられるものが、次から次へと多過ぎて対応できなくなるから

 親に〇〇しなさいと言われたら何も考えずに、言われた通りにする  一々、考えていたら、全てを消化することができなくなるから考えずに呑み込む  そういう生活を音楽の勉強を通して、子供の頃からしてきている

そして、今のイズミさんにとっては真樹さんも、ご両親と同じぐらい大切な存在なのよね

 イズミは真樹に対して同性愛的な強い憧れの感情を抱いている

だから、真樹さんの言葉はご両親の言葉と同じように受け入れるし真樹さんのためになると思ったら、茉莉花やあなたの言葉も受け入れているのよどんなことでも

 イズミにとって大切なのは真樹だけオレや茉莉花は真樹を通じて、受け入れているだけだ

さっき月子さんが言っていたようにイズミさんだって、その時に起きていることや周りの人たちの言動には細かく反応しているのよだけどそれを自分なりに分析して、自分から行動していくことができないのよいつもお祖父様や両親の言う通りに行動するだけで、自分の意思で考えて何かするということを経験してきていないから