Выбрать главу

よし、それじゃあケイ、オレたちも行こうぜ

あ、ああ……

ケイはアイリーンに強引に腕を引かれ、商人街の一角を歩いていた。勿論、サスケとスズカも一緒だ。

さて、厩舎のある、そこそこの宿屋となると……

きょろきょろと、周囲を見回しながら歩くアイリーン。宿屋の密集する商人街だけに、『INN』と書かれた看板は山ほどあるが、逆により取り見取りすぎてどれを選べばいいのか分からない状態だ。

見当がつかないな。ホランドの旦那に聞いておくべきだったか

かもなぁ

ケイの言葉に、ちと急ぎ過ぎたかな、とアイリーンが渋い顔をする。

結局、割高なのは覚悟で、派手な装飾がされたガチョウの看板が目印の、小奇麗な宿を取ることとなった。

ようこそ、“GoldenGoose”亭へ。お二人様で?

酒場を兼ねたそこそこに清潔なホールで、女将と思しき中年の女性が、見事な営業スマイルを向けてくる。

ああ、それと馬を二頭頼む

小間使いにサスケとスズカを任せ、ケイたちは早速部屋を取ることにした。

それで、何人部屋が空いてる?

アイリーンの問いかけに、女将が台帳を開く。ケイの顔に、緊張の色が浮かんだ。

……そうですね。二人部屋が一つと、大部屋が一つ。あと、個室も二つ空いてますよ

女将の言葉に、(来た!)と頷くケイ。

そっか、それじゃあ―

個室で頼む

アイリーンが言う前に、ずいと割り込んだ。ケイとアイリーンの顔を見比べて、不思議そうに女将が小首を傾げる。

二人部屋の方がお得になりますが?

いや、個室がいい。……アイリーンも、いいよな?

ケイは、確認の意を込めて、アイリーンを見やった。アイリーンは少し眉をひそめ、

……うん。いいけど……

それじゃあ決まりだ

どこかホッとした様子で、カウンターにジャラリと二日分の代金を置くケイ。

(これで、ようやく一人になれる……)

ダグマルの言葉ではないが、正直なところ、ケイはかなり溜まっている。ぶっちゃけた話、発散したくてたまらないのだ。

(これで二人部屋になっちまったら、かなりやりづらいからな……)

その上、二人部屋は、色々と危険だ。サティナではずっと同じ部屋に泊り、ここ数日はさらにテントでほぼ同衾状態だったが、そろそろケイの理性が限界に近付きつつある。アレクセイ由来のストレスもあって、このまま悶々とした状態が続けば、突発的な衝動に負けてしまう可能性があった。

それで、アイリーンとの、友人関係すら崩れてしまったら―考えるだけでも恐ろしい。

(元々、二人部屋だったのも、個室がなかったからだし……俺には、俺という獣から、アイリーンを守る義務がある……)

イマイチ煮え切らない表情のアイリーンをよそに、ケイがそんなことを考えていると、

アイリーン!

聞き覚えのあるハスキーボイス。ぎょっとして、ケイとアイリーンは同時に振り返る。

見れば、そこには、荷物を抱えて、満面の笑みを浮かべるアレクセイ―

よ、よぉ……

奇遇だな、アイリーン! 俺もこの宿を取るつもりなんだ

そ、そうか。それじゃ

自分たちの荷物を抱えて、そそくさと二階に上がっていく。 あ、待ってくれよ! というアレクセイの声を無視して、とりあえず片方の個室に、逃げるようにして入った。

……なんでヤツが……

ベッドの上に腰を下ろして、げっそりとした表情のアイリーン。

……イヤなのか?

う、う~ん。なんというか、ちょっと鬱陶しいな

身も蓋もないアイリーンの言葉を聞いて、しかし努めて平静に、ケイは そうか と首肯した。

でも最近、色々と話してたじゃないか

別に大したことじゃないよ

探るような言い方をするケイに、小さく肩をすくめて見せたアイリーンは、

さ、それよりケイ、ちょっと町を見てみようぜ! さっきウマそうなもん売ってる屋台があったんだ!

ちょうど小腹も空いてきたことだし、それもいいなと思ったケイは、一緒に町に繰り出すことにした。宿屋のホールでアレクセイには遭遇したが、アイリーンがそれとなく理由を付け、同行は断った。

こっちの方から良い匂いがするな

金には余裕がある。食い倒れと洒落こむか

懐の財布をいじりながら、幾分か楽しそうな様子で、ケイ。街中なので武装は解いているが、腰のケースには”竜鱗通し”を、さらに財布や宝石類も、全身に分散して身につけている。

ユーリアはサティナに比べると遥かに規模の小さな町だが、その分人口密度が高いので、道を行き交う人も多い。そして通行人が多いということは、それをカモにするスリも多いということだ。“受動感気(パッシブセンス)“に長けたケイであれば、コソ泥程度にスられはしないだろうが、万が一ということもある。海外旅行の鉄則、『貴重品は分散する』は、この街においても有効だろう。

それで、その屋台ってのは?

んーと、たしかこっちに……

二人で連れだって、商人街をふらふらと歩いていると、道端から陽気な音楽が聴こえてくる。見やれば、井戸端の小さな広場に、人だかりができていた。

あれは……?

見てみようぜ!

アイリーンがケイの手を引いて、人だかりに突撃する。ケイとしては、スリが山ほど居そうな人の群れは遠慮したかったのだが、仕方がない。

ぐいぐいと野次馬を押しのけて、中心に到達するとそれは、

……大道芸人か

ぽつり、とアイリーンが呟いた。

広場に居たのは、派手な服に身を包み、笛や太鼓などの楽器を演奏する芸人達だった。

その中心には、陽気な音楽に合わせ身体をくねらせる踊り子。ゆったりとした動きで腰を振りながら、彼女は妖艶な流し目を野次馬に向けていた。

その格好は、半裸どころか、殆ど裸といっても差し支えがないほどに扇情的なものだった。股間は腰布で隠しているものの、メリハリの利いた上半身には、御情け程度の薄布と亜麻色の髪しか覆い隠すものがない上に、覆われたところも色々と透けている。しかもそれが、リズムに合わせて、ゆさゆさと揺れるのだ。いや、むしろ、 揺らしている といっていい。

群衆の中から、踊り子の前に置かれた平皿に、次々に銅貨が投げ入れられている。下品なヤジが飛べば、薄く笑みを浮かべた踊り子は、そちらに向けて挑発的な仕草で肉体美を披露し、さらに白熱した男達が歓声を上げる。その場にいた男どもは、誰も彼もが鼻の下を伸ばしていた。

そして、不幸なことに、やはりケイも男であった。

いや、数日の禁欲を強いられた後で、このような状況下に置かれ、目が釘付けになってしまったケイを、咎めるのはあまりに酷というもの。

しかし、それでも尚(なお)、彼の失敗を挙げるとするならば、それは―