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ありゃ傑作だったなぁケイ

ああ。二度と御免だが

もちろん領主の館などスルー。呼ばれてもいないし、呼ばれる予定もない。実に素晴らしいことだ。

少しでも疲れを癒やすため、高級な宿に泊まる。マンデルは遠慮しようとしたが、有無を言わさず宿代はケイたちが出した。風呂で汗を流し、ゲロマズ体力回復薬を服用し、口直しするようにたらふく食ってから、その日は早々に就寝。

その甲斐あってか、翌日は疲れもなく、ベストコンディションで出発できた。マンデルも寝る前に軟膏を塗ったようで、股が痛むことなく強行軍を続ける。

そして。

見えた!

街道の果て―丸太の防壁で囲まれた開拓村が見えてくる。

見たところ、壁が壊された様子もない。周囲には人影もあった。

おぉーい!

ケイたちが手を振ると、住民もこちらに気づいたようで、手を振り返してくる。

サティナを発ってから、およそ一日半。

ヴァーク村は―まだ無事だったのだ。

いつも感想ありがとうございます! 実は昨日、短編を投稿しました。

神 お主のチート能力は『いらすとや召喚』じゃ

サクッと読めるコメディなので、オススメです! なんと挿絵もついてます!

92. 状況

前回のあらすじ

マンデル(下半身露出のすがた) この軟膏の半分は。……優しさでできている

ケイ&アイリーン アビス軟膏~♪

そしてケイたち一行は、ヴァーク村に到着した。

ヴァーク村の男たちから、ケイは熱烈な歓迎を受けた。

英雄が来たぞ!

“大熊殺し”だーッ!

公国一の狩人ーッ!

“疲れ知らず(タイアレス)“ーッ!

公国一の木こりーッ!

何か変な二つ名も混じっていたが。

ケイ!! 来てくれたのか!!

村長のエリドアが、ホッとした顔で飛び出てきた。チャームポイントのハの字の眉は相変わらずだが、前回会ったときに比べ、かなりやつれている。

エリドア! 無事だったか

ああ、何とか。テオは立派に仕事をやり遂げたんだな。想像以上に早い到着だよ、ありがとう

テオ―コーンウェル商会に遣いとしてやってきた少年のことだ。

テオは今、商会で世話になってるはずだ。俺たちも全力で駆けて来たが、間に合わないんじゃないかと気が気でなかったよ……

村の中で下馬しながら、ケイは周囲を見回す。

ヴァーク村―ぐるりと丸太の壁で囲まれた開拓村。この防壁は、人間や普通の獣を防ぐには充分だろうが、“森大蜥蜴(グリーンサラマンデル)“相手では紙細工ほども役には立たない。襲われればひとたまりもないだろう。女子供は避難させた、と聞いていた通り、村内には男たちしか残っていなかった。

だが。

それでも村は、賑(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

興味深いことに、村の出入口の付近、門の周辺にはテントや天幕が張られており、よそ者連たちが大勢そこで過ごしているのだ。野心に燃える駆け出しと思しき行商人、いかにもガラの悪い食い詰めた傭兵、身一つで乗り込んできた素人、森に溶け込みやすい格好をした狩人や野伏、などなど。

“森大蜥蜴”の脅威が迫る中、てっきり村の男たちしかいないと思っていたケイは、まだこの場に留まる命知らずがいたことに驚いた。

意外と人がいるんだな

率直な感想を漏らすと、エリドアはなんとも言えない顔で頷く。

ああ。頼もしい奴らさ。いつでも逃げ出せるよう、準備に余念がない

皮肉げな言葉だが、責めるような色はなかった。

まあ、両者とも気持ちはわかる。

この壁に囲まれた村には、出入口の門が一つしかない。村内で過ごしているところを襲われれば、みなが門に押し寄せて大パニックになるだろう。少なくない数が逃げ遅れるはず―村人たちは各々の家があるので仕方なく村内で過ごしているが、よそ者がそれに付き合う義理はない。村の外で過ごすのは当たり前の選択だ。

村人側としても、その気持ちはわかるが、いざというときは見捨てると宣言されているようなものなので、複雑な心境だろう。

……正直、ケイも好き好んで壁の内側にいたいとは思わない。いざというときに動きが制限されるのは困る。

彼らはなぜここに?

サスケの汗を拭いてやりながら、ケイは尋ねた。

『森の恵み』を求めてるのさ

というと?

深部(アビス) の動物が迷い出てきたり、普段は生えないような珍しい薬草が群生したりしてるんだ、今のあの森は

壁の向こうに広がる森を見やるようにして、エリドアは言った。

アイツら、この状況下で森に入ってんのか?

アイリーンが驚愕の顔でよそ者たちを見る。何人かの荒くれ者たちが、アイリーンの美貌を目にして囃し立てるような声を上げた。

……命知らずだな

マンデルがぼそりと呟く。ケイも全く同感だった。討伐に来ておいて何だが、森の中で”森大蜥蜴”とやり合うのは御免だ。ケイの足では絶対逃げ切れない。

当然、森に入り込む探索者―そのほとんどが素人の食い詰め者―が、怪物に出くわして生きて帰れるとは思えなかった。

それだけ、カネになるんだ……噂が噂を呼んで、むしろ”森大蜥蜴”が出る前より、人の出入りが増えたぐらいだ

エリドアが苦笑する。『アビスの先駆け』とまでは言わないが、高値で取引される薬草やキノコ、美しい毛皮の珍獣、そんな存在が森には溢れているらしい。“森大蜥蜴”の出現直後は逃げ出す者が多かったが、その隙に珍しい獣を生け捕りにして大儲けした剛の者が現れ、結局それを羨んだ多くの探索者たちが戻ってきたそうだ。

今では、一攫千金を夢見て森に入る命知らずたちと、それらの”商品”を高値で買い取る行商人で、村は大賑わいなのだという。

ただし、経済活動のほとんどが村外で行われる上、村内の施設も休業状態であり、村にはあまり利益が還元されていないとか何とか。

話を聞いたケイは、 随分と悠長に構えているんだな という感想を抱いた。と同時に、それほどまでに森の生態系が変わっているということは―あまり良い傾向とは言えない、と危惧した。

……この近辺には、まだ”森大蜥蜴”が姿を現してないのか?

何より気になるのは”森大蜥蜴”の動向だ。流石に近くにヤツが『出た』となれば、探索者はともかく、商人たちが真っ先に逃げ出すはず。

いや……それが、はっきりとは言えないんだ。ヤツの行動範囲が、少しずつ広くなってるのは間違いないんだ……

エリドアは何とも困ったような顔。

……詳しい事情を説明しよう。こっちに来てくれ