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村の男たちには、もちろん手伝ってもらう予定だ。しかし、探索者―特にキリアンのような腕も度胸もある人材は、いくらでも欲しい。

声をかけたら、もう少し集まると思うか?

報酬次第かと思いやすね

身も蓋もない答えに、 そりゃそうだ とケイは苦笑する。

キリアンだったら何が欲しい?

アッシはもちろん、金子(きんす)をいただけるならそれに越したことはありやせんが。手持ちが少ないならば、討伐成功の暁に獲物の素材を分け前に―という手もアリだと思いやす

なるほど

確かに、こういった大物狩りでは成功報酬が一般的かもしれない。大物狩りそのものが一般的かどうかはさておき。

ただしケイの場合は、そこそこ懐に余裕がある。

仕留めた”森大蜥蜴”は、コーンウェル商会に売り払う手はずになってるんだ。俺の一存じゃ素材の扱いは決められない

ほほう

だが幸い、金はある。できればキリアンのような、クソ度胸のヤツを雇いたいんだが……心当たりはないか?

わかりやした。何人か、声をかけてみやしょう

頷いたキリアンは、そう言ってまた天幕の陰に姿を消した。

よし、落とし穴でも掘るか

人材探しはキリアンに任せ、ケイは村の外で作業に取り掛かった。

念のため”竜鱗通し”と”氷の矢”を携え、手近にサスケも控えさせているが、ケイは少なくとも明日の朝まで”森大蜥蜴”は動かない、と見ている。

昨日犠牲になった探索者は最低でも四名。“森大蜥蜴”も腹が膨れて、そこそこ満足しているはずだ。ここしばらく、狩場では獲物に不自由していなかったので、今日も巣穴周辺で待ち構えていることだろう。

そして”森大蜥蜴”は昼行性なので、日が暮れて気温が下がってしまえば、明日の昼前までは動けない―

(―と、説明したんだがな……)

自らもシャベルを振るいながら、ケイは辺りを見回して肩を竦めた。

周囲には、村長のエリドアをはじめとした村の男たちの姿もある。みな、農具を手に作業に従事しているが、いつ森から怪物が飛び出してくるか気が気でないようだ。背水の陣を敷く軍隊の兵士でも、もうちょっとマシな顔をしているだろう。

(まあ、気持ちはわかるが)

かく言うケイも、絶対に100%安全だと思っているわけではない。アイリーンにはすぐそばで森を見張ってもらっているし、短弓を手に控えているマンデルにも”氷の矢”を数本渡してある。

当のケイたちが気を緩めていないのだから、村人たちが気楽に構えていられるはずがないのだ。

ケイ、ちょっといいか

と、鋤を担いだエリドアが、眉をハの字にした困り顔で話しかけてくる。

どうした?

そこそこ掘ったところに、デカい石が出てきた。どうしたものか

エリドアに連れて行かれると、確かに、どデカい石―というより岩―が地面に埋まっていた。

……うーむ、これを動かすのは確かに骨だな。ツルハシかデカいハンマーがあれば砕けそうだが

ツルハシはないな。ハンマーも木槌しか……

そうか、なら仕方ない……そのまま動かすか

できれば道具を使って楽をしたかったのだが。

ケイは一抱えもあるような巨石を、 どっせい! と無理やり持ち上げて、豪快に放り捨てた。

よし、これでいいだろう

……相変わらずの怪力だな

ぱんぱん、と手の土埃を払うケイに、エリドアが呆れている。周囲の村人たちも、 何を食ったらあんな筋肉つくんだ にしてもこの石デカすぎだろ デカすぎて税金取られそうだな などと話している。

しかし、エリドアたちも頑張ったんだな……

切り株だらけの景色を見回しながら、ケイは感慨深げに言う。

以前来たときよりも、ヴァーク村の周囲はずっと拓けていた。“大熊(グランドゥルス)“襲撃時は、村から目と鼻の先の距離にあった森が、今は50メートルほども離れている。 深部(アビス) の領域変動、その影響を少しでも抑えるために、森そのものを削る―村人たちの涙ぐましい努力の賜物だった。

お陰で、戦いやすい

サスケが駆け回るスペースがあるし、射線も通る。足場の悪さが玉に瑕だが、森の中と違って”弓騎兵”として立ち回れる。もしも村が以前のように森と近いままだったら、村への被害を度外視して、街道の辺りまで”森大蜥蜴”をおびき出す必要があったかもしれない。

しかし……ケイ、こんな落とし穴が、本当に”森大蜥蜴”に効くのか?

穴を掘り進めながら、エリドアが問う。

“森大蜥蜴”は10メートル近い化け物なんだろう? こんな、子供でも這い出せるような穴、それこそ子供だましにしか思えないんだが……

いや、意外と有効なんだコレが

土を掻き出しながらケイは答える。

“森大蜥蜴”、図体の割に脚が短くてな。力が強いお陰で、それでも素早く動き回れるんだが、だからこそ、猛スピードで走ってきて脚が引っかかると―

かなりバランスを崩す。腹を地面に擦ってしまい、突進の勢いは大幅に減じる。

で、そこを狙うというわけだ。“大熊(グランドゥルス)“と違ってバカだから、何度でも引っかかるしな

ふぅむ……なるほど

エリドアも納得したようだ。他の村人たちもやる気が出てきたらしく、穴を掘る手に力がこもっている。

おおい、旦那

と、村の方からキリアンがやってきた。背後には探索者たちを引き連れている。

キリアン! ……なんか、多くないか

引き連れている―ぞろぞろと、まるで遠足のように。

話を耳に挟んで、人足として雇ってくれという連中がいやして

親指で背後を指し示しながら、キリアンが肩をすくめる。

―ザッと顔ぶれを見てみると、色々と酷い。

どうやら大半は、 とりあえず少しでも金を稼ぎたい という者たちのようだ。みすぼらしく覇気もない。 “森大蜥蜴”に挑んでやろう という気概に満ちた者は、数えるほどもいなかった。

ええと……じゃあ、人足志望の奴らは、ここにいる村長のエリドアの指示を聞いてくれ

ケイがそう言うと、探索者たちがぞろぞろとエリドアの方に行く。 道具が足りないぞケイ! という悲鳴を聞き流しつつ、キリアンを見やる。

……で、彼らが?

へえ。アッシが声をかけた連中でさ

残ったのは、たった二人だ。

まず、ゴリラのような筋肉隆々の男。装甲をうろこ状に重ねたスケイルアーマーを装備しており、短めの槍を四本も背負っているのが印象的だ。探索者というよりは、傭兵といった趣を呈している。先ほどからぎらぎらした目でケイを睨みつけてくるのだが、理由に心当たりはない。