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次に、浅黒い肌のイケメン。場違いに思えるほどの美丈夫で、革鎧を身につけていなければ吟遊詩人か何かかと勘違いしてしまいそうだ。腰にはショートソードを差し、草原の民の複合弓を握っている。身のこなしはなかなか様になっており、武具も使い込まれた風で、ただのイケメンではなさそうだった。

おい、あんた……ケイか

と、ゴリラのような男が、クワッと歌舞伎役者のような表情でケイに迫る。

あ、ああ、そうだが

警戒心高めで引き気味のケイ。

ゴリラ男はサッと手を差し出す。何事だ、と身構えるケイに、

あ……握手……してくれねえか

……は?

……武闘大会……見ていた。あんたのファンなんだ……

ゴリラ男はうつむきがちにそう言った。

94. 助人

前回のあらすじ

あ……あんたの……ファンなんだ…… (もじもじ)

あんたのファンなんだ……

ケイの人生において、そうそう言われたことない台詞だった。

あ……ああ、……それはどうも

我に返ったケイは、手を差し出し、ギュッと握手した。

なんか力いっぱいに握って握力を確かめてくる、などということもなく、ゴリラ男は ははッ…… と照れたように笑って、ただ嬉しそうにしている。

……旦那。こいつは『ゴーダン』っていう名前なんですが、見かけによらず純朴なヤツでして

妙な空気の中、キリアンがフォローを入れた。

旦那の大ファンで、キャンプの古参なのに、昨日からモジモジするばかりで全く話しかけもできやせんで。見かねて連れて来たわけでさぁ

……そのためだけにか?

ああ、もちろん、槍投げの名手でもありやす。おいゴーダン、ボサッとしてねえで旦那に見せてやんな

お、おう

モジモジしていたゴーダンが、気を取り直して、背中の槍を一本抜き取る。さらに右手には、投槍器(アトラトル)と呼ばれる補助具を持っていた。

投槍器(アトラトル)とは、槍の石突を引っ掛けるための窪みがある棒状の道具だ。腕の力を無駄なく推進力に変換して槍を打ち出すことにより、射程と威力を飛躍的に上昇させられる。

槍の石突を窪みにセットし、ゴーダンが振りかぶった。

ふッ!

ビュゴッ、と弓矢とは全く異なる重量感のある音とともに、槍が投射される。

緩やかに放物線を描いた槍は、その実、恐るべき速さで風を切り、遠方の木の幹にドガッと突き立った。着弾点には樹皮が剥げた楕円形の模様があり、適当に投げたのではなく、狙って命中させたのは明らかだった。

ほう! すごいな

大した威力、そして正確性だ。ケイの”大ファン”で、あれほど照れていたにも関わらず、即座に命中させてみせる度胸もポイントが高い。

旦那、いかがでしょう

雇おう。彼が協力してくれるなら心強い

おっ、よかったじゃねえかゴーダン、即決してくだすったぞ

ははッ……そっか……

嬉しそうに笑ったゴーダンは、照れてそれ以上は言葉にならなかったのか、浮かれた足取りで木に刺さった槍を取りに行く。

それで、次はこっちでやすが―

俺の番か!

続いて、キリアンがもうひとりの方を見ると、浅黒肌のイケメンが待ってましたとばかりに口を開く。

俺の名前はロドルフォ! 流れの用心棒だ! 栄えある”大熊殺し”のケイ殿に出会えるとは恐悦至極! ってとこかな!?

芝居がかった仕草で一礼するロドルフォ。とても威勢がいい。ゴーダンの影響か、ロドルフォもナチュラルに握手を求めてきた。

そしてあんたほどじゃないが、弓が得意だ!

言うが早いか、右手で矢筒から数本まとめて矢を抜いたロドルフォは、複合弓を構えて速射を披露する。

シュカカッ、と耳に心地よい音を立てて、木の幹に矢が3本突き立った。

なかなかの早業だ。しかし……

……4本、放ってなかったか?

一矢、どこかへすっ飛んでいったようだが。

うむ! これでもマシになった方なんだがな! 百発百中とはいかないから、数で補うことにした!

なるほど

数撃ちゃ当たる理論。連射の速さそのものはケイにも迫る技量だ。ロドルフォなりの修練の成果なのだろう、と理解した。

ただ、連射用に調整した結果か、複合弓の”引き”が少し甘いのが気になる。弓の威力を十全に引き出せていない―

(―いかんな、同業者(ゆみつかい)となると見る目が厳しくなりそうだ)

ケイはそんな自分に気づいて苦笑した。

(……まあ、いくら狙いが甘いといっても、“森大蜥蜴”のバカでかい図体を外すことはないだろう。1、2本は魔法の矢を預けても大丈夫か?)

うーむ、と考え込む。

今のところ、“氷の矢”はマンデルに5本ほど預けてあり、残りの15本はケイが持っている。“森大蜥蜴”の巨体を効率的に冷却するには、できるだけ多方向から複数の矢を打ち込む必要があるのだが、肝心の射手がいなかった。

その点、ロドルフォは悪くない。射手としては。度胸もありそうだし……

……。ダメか?!

ケイの沈黙をどう受け取ったか、ロドルフォがこてんと首を傾げる。

ああいや、すまない、少し考え込んでいた。……もしよければ、使っている弓を触らせてもらえないか

え? ああ、構わないが。見せるほどのものではないぞ!

ロドルフォがヒョイッと弓を渡してくる。他人に触らせることを全く気にしていないようだ。ケイは”竜鱗通し”を他人に扱わせる際、それなりに緊張するのだが。

(草原の民からの流用品、あくまで換えのきく道具ってことか)

複合弓をグイッと引いて、張りの強さを確かめたケイは、 まあこんなもんか と納得する。ロドルフォの引き具合から考えると、速射時の威力は本来の8割といったところか。

威力が不安か?

ケイの懸念を、ロドルフォは汲み取ったようだ。

―なら、ここを狙ったらどうだ!

とんとん、と指先で自分の目の下をつつき、ロドルフォは笑う。

柔らかく、脆い眼球を狙うつもりらしい。

……それは、おれも考えていた

と、いつの間にか近くに来ていたマンデルが話に加わってくる。

ケイ。……実際のところ、目は弱点になりうるのか? 以前、“森大蜥蜴”は熱を探知する器官を持っていて、視覚に頼らず獲物の位置を特定できる、と言っていたが、目を潰しても意味はあるのだろうか

マンデルの質問に、ロドルフォが え? なにそれ、そんなの知らない とばかりにスンッと真顔になった。

もちろん、意味はある。目をやられて平気な生き物はいないさ、痛みで怯むだろうしな。ただし命中すればの話だ

ケイは手で、十センチほどの円を作ってみせた。

“森大蜥蜴”の目の玉はだいたいこれくらいの大きさだ。図体の割に目はそんなにデカくない。そして、ヤツはこうやって