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せっかく犠牲もなく討伐できたんだ……今日という日を『無血』で終わらせたい。そうは思わないか

思います

というわけで、盗ったものを置いていったら勘弁してやろう。とっとと出せ

ケイがオラつくと、コソ泥たちは一も二もなく素材を差し出してきた。皮の切れ端―どうやら、戦いでついた傷をナイフでこじ開けるようにして、無理やり引っ剥がしてきたらしい。こんなしょーもない剥ぎ方をしてもほとんど使いみちがないだろうに、本当に記念品くらいにしかならないな、と遣る瀬無い気持ちになるケイ。

これで全部か?

全部です

……これで、全部、か?

一人、何となく怪しい奴がいたので圧をかける。

……あっ、忘れてました! こっちのポケットにも

その業突く張りは、素知らぬ顔でやり過ごそうとしていたが、ケイがそっと矢筒に手を伸ばしたところで音を上げた。

まったく、最初から素直に出せ

これでケイの気が変わって、 やっぱ全員ブチ殺しておくか…… とでもなったらどうするつもりだったのか。

いっ、いえ忘れてただけで……

あーもういい、解散!

ケイが言い放つと、コソ泥たちは脱兎の如く走り去っていった。 バカ野郎! 気が変わったらどうするつもりだったんだよ! とコソ泥たちが業突く張りをなじる声を聞き流しながら、アイリーンと顔を見合わせる。

……勝利の余韻もへったくれもあったもんじゃないなぁ、ケイ?

全くだ

苦笑するアイリーンに、ケイはうんざり顔で頷いた。

死骸のそばに戻ると、一部始終を見ていた村人たちが、それとなく探索者たちを見張っていてくれているようだ。

自然、ケイの周りに関係者が集まる。

厚かましい奴もいたもんだな

すっかり泣き顔から村長の顔に切り替わったエリドアが話しかけてきた。

ああ。油断も隙もない

盗人対策もしなきゃならんのか……

ぺし、と額を叩いて溜息をつくエリドア。

……今夜は、討伐祝も兼ねて皆で不寝番かな

『伝説の狩り』とはいっても、舞台裏はこんなもんか、と一同苦笑を隠せない。

まあ、なにはともあれ

パン、と手を叩いて、ケイはその場の面々に向き直る。

静かな面持ちのマンデルは、達成感と、危険な仕事を終えたという安堵を噛み締めているようだった。

汗まみれのゴーダンは、疲労の色が濃いながらも晴れ晴れとした顔をしている。

はしゃぎまわっていたロドルフォは、賢者タイムとでも言うべきか、反動が来たらしくどこか虚脱した様子。

負傷した胸を押さえて苦しげなキリアンは、一気に老け込んだようだ。ポーションは流石に分けられないが、あとで『アビスの先駆け』の軟膏を渡しておこう、とケイは思った。

―そして、そんな彼らから一歩下がったところで、ホアキンがツヤッツヤの満面の笑みで立っている。満足そうで何よりだ。

……みんな、ありがとう。おかげで犠牲もなく倒せた。俺ひとりでは、絶対に不可能だった―改めて本当にありがとう

ケイが一礼すると、皆、口々に いやいや こちらこそ と返してくる。

それで―報酬に関してだが、まさかの想定外が起きたからな

ちらっ、と二頭の死骸を見やるケイ。

『名誉も報酬も二倍』、この言葉を違えるつもりはない。コーンウェル商会との交渉次第ではあるが、皆、期待していてくれ!

ケイの宣言に、やはり現金なもので、笑顔にならない奴はいなかった。

ぶるるっ

が、そのときケイの後ろ髪がグイッと引っ張られる。

イテテっ何だ!? ―サスケェ!

振り返れば、ふんすふんすと鼻を鳴らす汗だくのサスケ。 ねえぼくは??? と言わんばかりの凄まじい圧を発している。

もちろん、お前も忘れてないよ。ありがとう

大活躍だったもんな!

ケイの騎兵戦術も、サスケ抜きでは成立しない。

縁の下の力持ちとはまさにこのことだ

偉いぞサスケ!

帰ったら美味いものいっぱい食べような

ブラシもかけてやるぞ~!

ケイとアイリーンにわしゃわしゃと撫でられて、口々に褒められて、不満げだったサスケもようやく機嫌を直した。

どこか締まらない様子のケイたちに、周囲の面々も笑い出す。

晩秋の澄んだ青空に笑い声が響き渡り、冬の訪れを予感させる冷たい風が、狩りのあとの血生臭い空気を吹き流していった。

ひとまず決着。次回、狩りの面々の後日譚とかやりたいと思います。

感想、ポイント評価、にゃーんなど、大変励みになっております。 更新遅いぞ! という方は、直接言われるとナイーブに傷つくので、 フシャーッ! と威嚇する程度に留めていただけると幸いです。がんばります。

今年もどうぞよろしくお願い申し上げます!

99. 後日

『公都』ウルヴァーン。

公国でも屈指の巨大都市。小高い岩山に築かれた領主の居城を中心に、貴族たちの館や邸宅が整然と建ち並び、さらにその外側には、壺から溢れ出したミルクのように雑然とした一般区の街並みが広がっている。

そんな市井の片隅―宿屋”HungedBug”亭。

一階は酒場も兼ねており、夕暮れ時は宿泊客や常連たちで大賑わいだ。

はぁーい、お待ち遠様、エール2つにソーセージとチーズの盛り合わせね

HungedBug亭の看板娘、『ジェイミー』は、今日も給仕に会計に掃除にと、忙しく働いていた。

よっ、待ってました

ジェイミーちゃんいつもカワイイねぇ

はいはい、ありがとね

常連セクハラ親父の手をパシッと払い除けながら、ぞんざいに答えるジェイミー。健康的な小麦色の肌、グラマラスな体型、その上かなりの美人なジェイミーは、良くも悪くも男にモテる。

はぁ~どっかにいい男いないかな……

が、寄ってくる男は大抵、砂糖菓子に群がるアリのごときロクでもない連中ばかりなので、本人は灰色の日々を過ごしていた。養父にして宿屋の主人、『デリック』が悪い虫に睨みを利かせているということもある。そのへんの若い男は、父の名前を出すと青い顔をして逃げてしまうのだ。過去に一体何をやらかしたのか―

いい男ならここにもいるぞぉ~~!

ジェイミーの独り言を聞きつけて、酔っ払った赤ら顔の親父が自己アピール。

はいはい、いい男いい男

溜息混じりにあしらい、食器を片付けるジェイミー。とりあえず酒臭い男にはもううんざりだった。

―そういや聞ききました? 例の話

―あれか? ヴァーク村の……

テーブルを拭いていると、酒場の隅、宿泊客たちの会話が聞こえてくる。

なんと、本当に”森大蜥蜴”が出たって話ですよ

聞いた聞いた。それも二頭も、だろう?

おれは三頭って聞いたぞ

群れに襲われたんじゃなかったか?

そいつぁ世も末だな!

ワッハッハと大笑いする男たち。