「ありがとうございましたー!」
「いや、こちらも珍しい武器を作れて楽しかった。君さえ良ければ面白い材料を見つけた時は私の所に来て欲しい」
「良いんですか? 俺は前線組では無いですよ」
「ははは、客は選ばないさ。無論、人によっては作らない事もあるがね」
「なるほど」
なんというのかアルトとは別の方向でロールプレイ入った人だ。
俺も少しロールプレイした方が良いんだろうか。隠居した釣り師みたいな感じでさ。
「私はロミナ。ローマ字でrominaだ」
「俺は絆、妹と文字違いで絆†エクシードで繋がるからいつでも連絡ください。まだ材料はそんなに稼げてないけど、その内優先的に売るんで」
「それは助かる。解体スキル持ちは少ないからね」
「そんなに少ないんですか?」
「断言できる。少ないよ。特定武器で必ずドロップするなら良いんだが、ドロップ率はあまり高くないし、熟練度上昇速度も最低だと聞いたよ。更にお世辞にも強いとは言えない火力だからね」
「なるほど……」
「だから手に入った解体スキルのドロップ品はなんでも買い取るよ。幸いにも私は金銭的には困っていないからね。連絡を待っている」
「分かりました」
「では、また会おう」
そう行って移動アイテム。一個1000セリンもするアイテムで飛んでいった。
前線の鍛冶師は儲かっている様だ。
さて俺も道は違うが一歩進むとしよう。
そう息巻いて街からフィールドへモンスター狩りに行こうと思った瞬間、一つの露店に視線が向く。既にメインの商売人や製造スキル持ちは第二都市に移住を始めたそうなのだが、まだまだ第一都市で商売している人も多い。
そんな中、露店商人の一人が売っている商品が俺の心を揺さぶった。
――船。
人が二人位しか乗れない小さな手漕ぎボート程度の大きさの、船だ。
売っているのは蒼い宝石が胸に輝く晶人の少女だ。ボーっと空を眺めている。
第一印象はアルトと比べると覇気がない。
装備はここ等の製造職が付ける一般的な安めの衣服。好みなのか、オーバーオールだ。田舎臭いという理由で着ている人は少ない。俺は好きでも嫌いでもないが。
そんな事よりも船に視線を集中させる。
これがあれば、海でもっと釣りができるのではなろうか。
ずばり、欲しい。
「……なに?」
ボーっとしていた少女が一言、ボソっと呟く。
なんていうか、商売下手そうだな。
「これ、何セリンだ?」
「……4万」
「4万か! 良かった、10万とか言われたらどうしようかと思ったよ」
今まで船が売っている所は見た事がない。
下手をすればそれ位するかもしれないと不安だった。しかし4万セリンなら多少出費は嵩むけど、買えない額じゃない。
「じゃあ、4万セリン渡すな」
交換ウィンドウに4万セリン入力する。すると置かれていたアイテムが姿を消し、相手の項目に木の船+3と表示された。
「+3なのか。結構良い物じゃないか」
「……一応材料は選んだから」
「あ、品質について気付いているのか」
「一部の製造スキル持ちは気付いてる」
まあそうだろうな。
単に釣りで魚を釣るだけの俺ですら気付いているんだから、気付いていて当たり前か。
「でも、4万をホイって出せるって、あなた、金持ち?」
「そうでもないさ。ちょっとしたあぶく金でね」
空き缶商法の賜物ですよ。
十分稼がせてもらったので、使う時には使う。
「……金持ちは皆そう言う。貧乏人は文句付けて来る。お約束」
「なんかあったのか?」
「別に……船が高いって言われただけ」
「高いのか?」
「材料と経費でそれ位」
「じゃあ文句言われる筋合いはないな。気にするだけ無駄だ」
「ん……」
船というと木工系かな? どんなスキルがあるのか詳しく知らないが、そんな所だろう。
「オールも付けておいたから使うと良い」
「おう、ありがとう。船を新調する時はまた買うな」
「ん……」
掴み所のない船職人だった。
ともあれ船を手に入れた。
街を出てモンスターを狩る予定だったが、俺は反転してまたもや海へ向かった。
検索サイトで鯨包丁と調べると剣士専用装備が(笑)
水平線の可能性
いつもの橋の前でアイテム欄を表示させた俺は、木の船+3を浮かべた。
そして転覆しない様にゆっくりと乗る。
おお、現実でボートに乗った事があるが、違和感がない。
ともあれオールを使って漕ぎ始める。
「……中々進まないな」
おそらくこれにもスキルがあるのだろう。
乗船スキルか、それともオールスキルか。
ともかく俺は大海原に繰り出すぜ。
――1時間経過。
スキルなしの影響か、まだ陸が見える。
いや、あまり離れすぎても危ない。そろそろ釣りを始めよう。
「ん? なんだ、あれは」
陸とは間逆の空から一つ、黒い影が向かってくる。
良く見てみると鳥だ。
鋭いくちばしを持った鷹みたいな鳥。鷹より若干大きい。
……モンスターじゃね?
俺は勇魚ノ太刀を取り出す。
が。
ガクンと船が揺れて、落ちそうになる。
「くそっ! 重過ぎるのか!?」
おそらくは船に重量判定でもあるに違いない。
直に勇魚ノ太刀を仕舞ってアイアンガラスキ、鳥型モンスターと相性が良いという解体武器を手に持つ。
よし! 今度は沈まない。
「今だ。食らえっ!」
アイアンガラスキを大きな鳥、キラーウイングに振るが当らずにカラぶった。
船の上という事もあるが、戦闘には慣れていない。
その隙を突いてキラーウイングは特徴であるくちばしで突いてきた。
「くっ!」
50ダメージを受けた。
ステータス画面を眺めるとエネルギーが50減っている。
全てのステータスがエネルギー計算されるとは聞いていたが、こういう事か。
システムに納得しつつ向けた先にいるキラーウイングは更に攻撃を仕掛けようとしている。
くそ、形振り構っていられない。
俺はもう一度アイアンガラスキを振る。
――ザシュッ!
そんな効果音と共にキラーウイングに命中。HPが三分の一減った。
これでも鉄を使った前線組でも使われている高価な武器なんだが……それとも、キラーウイングが強いのか? どっちでも良い。今はこいつを倒す事だけを考えよう。