まあ良い。しばらくは解体スキル上げも兼ねてモンスター狩りをしていよう。
†
武器の性能が良いのもあるが、自分の適正狩り場がどの辺りなのかを探りながらフィールドを進んでいると槍を持った緑色の小人……ゴブリンアサルトと戦っている少女が見えた。
遠目だが俺より身長が高い。
まあ俺は誰かさんの所為でロリキャラだ。俺よりチビは少ないだろう。
……思考を戻す。
姉さんより幼く、紡よりは大人に見える。高校生位だろうか。
クラスメイトの女子があの位の大きさなので多分合っているだろう。
リアルでどんな人物かは知らないが。
格好は藍色の和服だ。
金色の模様が描かれており、風情のある容姿をしている。
武器は扇子。
全武器を試したと話す奏姉さん曰く、突きと打撃の攻守一体武器だそうだ。
しかし攻撃する訳でもなく、ゴブリンアサルトと間を取りながら焦った顔をしている。扇子が白色の光を発しているのでスキルが発動しているのは分かるが、進んで攻撃を仕掛けている様には見えない。
気になるな……。
「どうして攻撃しないんだ?」
少女がこっちに気が付く、不用意に声を掛けた所為でゴブリンアサルトが少女に向かって持っていた槍を使って突撃する。
少女はその突きを扇子で間に挟んで華麗にいなす。
普通に強いじゃないか。
少なくとも、俺だったら突きを避けるのは難しい。
「乱舞一ノ型・連撃……」
少女がスキル名を呟くと光っていた扇子の甲の部分でバチンバチンと続けざまにゴブリンアサルトの額にメリ込む。やがて力を失い、地面に倒れ伏すゴブリンアサルト。
『ふぅ』と軽い溜息を吐いた女性。
「貴女。攻撃されたらどうするんですか!」
「すまん。何か不味かったか?」
「普通の種族なら問題ありませんが、私は……あら?」
「どうした?」
「貴女も魂人なのですか。これは失礼しました」
「はぁ」
少女は突然口調を柔らかくして親しげな声を掛けてきた。
「貴女なら分かると思いますけれど、魂人は攻撃を受けてしまうと経験値効率に直結するのです。ですから可能な限り攻撃を受けない様に戦っていました」
「そういう事か」
確かに以前戦ったキラーウイングは本来なら300エネルギー入るはずが550ダメージを受けたので計250も減った。ステータスが全てエネルギーになるとそういう不便さもある。
それにしても彼女。装備は良さそうなのになんでこんな所で戦っているんだ?
「気になりますか? 先日エネルギーが少なくなってしまいまして」
まじまじと見つめていた所為か考えている事がバレた。
「俺に教えても良いのか?」
「別に誰かに話した所で変わる事でもありませんから」
「ふ~ん……」
少女は初日から意気投合したパーティーで戦っていて前線組だったそうなのだが、先日ボスとの戦闘で盾になったそうだ。
スピリットはエネルギーがHPの役割を示すので他の種族よりも圧倒的にHPが多い。なので扇子という攻守一体武器だったのも理由だが前衛として戦ったのが原因でエネルギーを相当削られたらしい。
そして能力が弱体化したと見るや掌を返す様にパーティー離脱を要求してくるメンバーに嫌気が差して自分から抜けて、強くなる為に今ここにソロでいる、という話だ。
「見ず知らずの同胞のお方に愚痴を話してしまい、申し訳ありません。つい気が立っていまして」
話が終わると少女は謝罪の言葉を口にした。
本当にパーティーだった奴等にイライラしているのだろう。
「問題無い。しかしありそうだとは思っていたけど、まさか本当にそんな事があるんだな」
「彼等は外道です。一度とて道を同じくした己が恥ずかしいです」
「その口調はロールプレイか?」
「ロールプレイ?」
「知らないのか? 演技って事だ」
「いえ、普段からこの様に振舞っていますが、何か問題でも?」
「別に、それなら問題ない」
ネットゲームでは珍しいタイプの人だと思う。
無論、最も有力な線はそれすらも演技、なのだが。
「まあ、それならパーティーを組まないか? 同じスピリット同士、多少は理解できるだろう」
「良いのですか? 私はエネルギーが20000ですよ」
「俺も同じ位だ。むしろ丁度良かったかもな。効率の良い狩り場とかも知っているんだろ?」
「ええ、少なくとも第二都市周辺まででしたら」
「じゃあ良ければ一緒に組まないか?」
少女は左手を口元に当てて考える素振りを見せた後、柔らかな笑顔で。
「わかりました。共に参りましょう」
「俺は絆だ。よろしくな」
「私は函庭(はこにわ)硝子(しょうこ)と申します。これからよろしくおねがいします」
随分と綺麗なお辞儀をしたものだから、ついこっちも『こちらこそ』とお辞儀で返してしまった。
ところで『これからよろしくおねがいします』ってお見合いみたいだよな。
やっとヒロインキャラが登場……。
スピリットペア
「前線組にいたっていうのは本当みたいだな」
俺はポツリと呟いた。
戦闘になった際の硝子は先程とは打って変わって鬼人の如く迫力がある。
それもペアになった事による安全度から来る物だと本人談。
何より扇子の攻守一体攻撃の間を縫ってアイアンガラスキで切り掛かるのも楽で良い。
「疑っていらしたのですか?」
「半分な」
「酷いお方です」
「そうは言っても本人の証言だけで、実際に見てきた訳じゃないからな」
「では、今は信じてもらえますか?」
そこは素直に頷く。
扇子は敵の武器を間に挟み、耐久力の低い武器ならば横に力を込める事でポキっと折れる。刀剣類だとその確率が上がる所を見るに剣に対するアンチ武器かもしれない。
しかしそれを実現するには相手の武器を受け止める必要がある。そんな神技を迷い無く防御、武器破壊の流れに持って行く動作がまるで舞っているかの様に見える程、硝子の動きは洗練されていた。
ほんの二週間前までこのゲームの初心者だったとは思えない。
「絆さんはこれまで何を?」
「最初の街でずっと釣りをしていた」
「釣りですか。イワシを頂きましたが美味しかったです」
目を閉じ両手を合わせて俺を拝んでくる。