「ともかく、敵に変な動きが無ければこのまま殴り続けるぞ」
「はい!」
「了解ござる!」
千里の道も一歩から、俺達は無限に続く一方的な攻撃を繰り返した。
――三十分経過。
「ま、まだ倒れない。どんだけHPあるんだ、こいつは……」
近付きすぎると攻撃が飛んでくるので、ギリギリの距離で攻撃を繰り返す。
特に硝子は扇子の射程が短いので偶に防御して受け流している。
しかもAIの関係か離脱しようとしてくる。
無論、その都度釣竿を使って攻撃範囲内に呼び戻しているが。
しかし、そういう面を含めてもAIの頭は良く無さそうだな。
「治癒能力でもあるのでしょうか?」
「否、自分達の攻撃力が低いだけでござろう」
まあそうなんだろうけどさ。自分で言うか普通。
既に無限とも言える量の攻撃を三人で繰り返していた。
その為、攻撃箇所の鎧は壊れ、鱗も割れている。
そこを重点的に攻撃する事でカンという音からズバという音に変わった。なので最初よりはダメージが入っていると思う。
だが、ボスとは言え一匹のモンスターに一時間も掛けるのは精神的に厳しい。
「我が魂の糧となるでござる。ドレイン!」
この三十分休みなしにドレインを使い続けた闇影はエネルギー量が硝子を越えた。
つまり2万7000程ある。
それだけリザードマンダークナイトはHPが高い。
「おおおお?」
闇影のドレインが発動して既に見慣れた緑色の吸収エフィクトが発生した直後、リザードマンダークナイトが普段と違う動きを見せた。
大きな、とても耳に響く咆哮と共に『ズーン……』という音と共に倒れる。
洞窟に何度もぶつかって地震を立てる事も無い。
「殺ったでござるか?」
「おまっ! それ死亡フラグだぞ」
「むむ、そうでござる。自分には里に残した妹が……まだ死にたくないでござるー!」
……やべぇ。
俺、こいつのこのノリ好きだわ。
「何をやっているんですか……もう」
硝子の冷たいジト目を受けながら倒したかを確認する。
この手のボスは死んだふりを使う事もある。注意を払って近付いた。
「死んだふりかもしれぬ故、気をつけるでござるよ」
「おう」
「いえ、それは無いのでは?」
「なんでだ?」
「曲がりにも騎士を名乗っているのですから、その様な卑劣な行いをするとは思えません」
ふむ、一理あるな。
死んだふりをするボスは大抵悪魔系や蛮族みたいのが多いと思う。
まあリザードマン自体が蛮族みたいな気もするが、一応こいつもナイトなのだろう。そこ等辺の礼節は守っているのかもしれない。
実際は礼節を守って正々堂々挑んできたリザードマンダークナイトを卑劣な手を使って罠に貶めたのは俺達なのだが、そこはあえて無視する。
「ドロップ品は……闇ノ破片と闇槍欠片でござる」
「高額で取引されている素材ですね」
金には困っていないが高値で売れるらしい。
まああって困る物でも無いし、いいか。
尚、闇影の話では両手槍の材料だそうだ。
闇属性付与が付くので槍スキル取得者は手に入れたい一品らしい。
「しかし、さすがは解体武器でござる。噂と同じくアイテムが出るのでござるな」
さて、ここからが本題なのだが、どうするか。
硝子の方は『どうしましょう?』という顔で見詰めてくる。
正直言えば解体したい。
というかこんなボスモンスターを解体する機会などそう無いだろう。おそらくだが、解体で手に入ったアイテムは武器防具として相当活用できるはずだ。
心の天秤に隠し続けるメリットと、ボスモンスターの解体アイテムを秤に掛ける。
「一緒にボスを倒した仲だし、教えるか……」
ボスドロップに勝る物なし。
「絆さんがよろしいのでしたら、それが最善かと」
「むむ? どういう意味でござるか?」
「まあ見ていろ。高速解体……」
俺はスキルを唱えると倒れている、大きなリザードマンダークナイトを勇魚ノ太刀で解体を始める。壊れている鎧や割れている鱗は無理だが、鱗、骨、肉、牙、瞳、皮、尻尾、血などが解体できる。
しかし、戦闘で破壊した箇所は解体できないんだな……。
あれか、某狩猟ゲームとは真逆の設定か?
破壊した部位はアイテムにならない。普通に割れている鱗を使用はできないよな。
「なんと……」
闇影が驚きの声をあげる。
ボスモンスターだからか解体で手に入る量が巨大ニシンと同じ位多かった。
きっと巨大ニシンは釣りに分類されるボスなのだろう。
「これは一体どういう事なのでござる? アイテムが増える? 解体武器はドロップ品が増えるのでなかったのでござるか?」
「あれは武器解説の説明不足です。真実の力は解体武器を化け物に使う事で道具が手に入るのです」
「自分、今日程驚いたのはこの世界で初めてでござる!」
余程驚いているのか、あるいは演技過剰なのか、闇影は興奮気味な言葉を吐く。
まあ世間に公表されたとしても、これ等のボス解体アイテムを早めに売ったなら十分稼げるさ。
「では、自分はこの事実を秘匿すれば良いのでござるな?」
「は?」
「見た所、絆殿も函庭殿もそれを秘匿しているご様子。命を救ってもらったという恩を返す為、自分墓場まで持っていく所存でござる」
「ま、まあそうしてくれるなら嬉しいが……」
そういえばこいつは俺達を殺しかけたんだった。本人は反省しているみたいだがな。
実際隠してくれるというのなら問題ない。
「それで物は相談なのでござるが」
「なんだ?」
「自分をパーティーに加えてはもらえぬでござるか?」
「……理由は?」
「自分、これまで一人でやってきたのでござる」
「そうなんですか?」
不思議そうに話を聞いている硝子。
そりゃ、あんな特殊なスキル構成だったらパーティーに入れないだろうよ。
思わず突っ込みたい衝動をグッと堪えながら話を聞く。
「己で口にするのは憚られるでござるが、自分、コミュニケーション障害なのでござる」
「…………?」
……なんだって?
残念ながら、とてもそうは見えない。
少々ロールプレイがきついので嫌いな人は嫌いだと思う。だが、そういうプレイが好きな人も沢山いる。少なくとも俺が出会ったアルトやロミナなどは問題なかった。